第96話 仲間を変えるならまず、協力者を

「所谷、東、杉本、岩田……今日は、オレから話したいことがあるんだ」


 大山と会った次の日、オレー平坂匠は、濱野の以外のチームメイトを自室に呼び出した。


 昨日、オレなりに考えた結果、まずは、オレ達が変わらないといけないと思った。だから今日はここで5人でこれからのチームの方針について話すことを決めた。


「平坂君から話したいなんて珍しいね。それも一華ちゃん抜きで」


 そう言ったのは、岩田梓。


「確かにそうだな。濱野なしで話す理由は、何かあるのか?」


 岩田の言葉に頷く杉本蓮は、オレに尋ねてきた。


「あぁ、今から話す話しは、濱野には関係ない。リーダーについていくオレ達に必要なことだ」


「リーダーについていく私たち……?」


 うららは、そう言って首をかしげた。


「オレ達は、これまで濱野の意見に対して何も反論せず平和にやってきた。オレは、このことに対して思うことがあるんだ。一つは、オレらが濱野の意見に頼りすぎていることだ。心当たりは、ないか?」


 オレは、チームメイトに問いかけた。


「ある……かも。なんかこのチームでいると自分の意見出しにくいっていうか……なんというか……」


 岩田がそう言うとオレ含め4人が驚いた。

 なぜならみんな自分が思っていたことがまさか岩田も同じことを思っているなんて思わなかったからだ。


「岩田もそうだったのか……」 


 杉本がそう言うと岩田は、驚く。


「えっ!? れんれんも?」


 杉本をれんれんと呼ぶ岩田は、共感者を得てテンションがあがる。


「あぁ、オレも言いにくい空気のせいで自分の意見を出せないでいる。もしかして平坂と所谷、東もか?」


 杉本は、尋ねてきた。


「僕もです。意見を言ったらなんか空気を壊しそうでいつも意見を言えないんですよね」


 東がそう言うと隣にいる所谷は、うんうんと頷く。


「オレもだ。この様子からしてみんな同じ気持ちでいたんだな。チームの輪を乱したくないから何も言わない……そうだろ?」


 少しきつめの言葉だが、ここで優しい言葉を選んでもチームのためにならないとオレは、思った。


「チームの輪を乱したくない……か。確かにそうかも」


 所谷は、今まで気づかなかったことを気づかされ驚きをみせる。いや、気づかなかったんじゃないな……オレ達は、おそらく気づかないようにしていたんだ。今のチームを維持するため、チームメイトとの関係を壊さないようにするため……皆、そうやってこのチームを守り続けていたんだ。これまでオレらのチームは、こうしてなんの争い事もなくやってきた。


 そうやれた理由は、一つ。それは、今日までチームメイトの関係を良好で居続けたことだ。相手のことを深く知ろうとしない、相談事は、聞くが無理に聞き出さない……と言った関係を築いていったからだ。つまりチームといった形だけの関係。


「なぁみんな……このままでいいのか?」


 オレは、みんなに問う。


「それってつまり、これからは、濱野さんに頼りっぱなしじゃなくて意見をハッキリ言えるような関係にするってこと?」


 岩田は、オレの問いを言い換えた。


「あぁ、そうだ。仲良しごっこは、もう終わりだ。これからは、1位を本気で目指すためにやっていかないか?」


 まさかオレが仲良しごっこと認めるとはな……おそらく雨野と大山の影響だろう。 


「仲良しごっこ……か。確かに私達は、お互い深く干渉せずに今までやってきた。仲良しごっこって言われてもおかしくない……。平坂君、本気で上を目指すため私は、変わることにするよ。まわりの空気なんて関係ない……私らしく意見を言えるようにする」


 岩田は、オレ達の関係を仲良しごっこと言われても否定せず自分が変わることを宣言した。


「奇遇だな平坂……オレも今のままじゃダメだと思ってた」


 続いて杉本も変わる決意を示す。


「僕もこのチームで1位を目指すため変わることにします。このまま濱野さん一人に任せるわけにはいきませんしね」


 東は、そう言ってオレのことを見た。


「あとは……。所谷は、どうしたい?」


 さきほどから黙り込む所谷にオレは、尋ねた。


「………さっき、仲良しごっこって言われてちょっと平坂君にイラッとしちゃった。今までの関係が偽りの関係って言われてるみたいで。ねぇ、

私達って上辺だけの関係だったの?」


 誰よりもこのチームを好きでいる所谷は、オレの言ったことがどうやら気に入らなかったようだ。


「そんなことは、言ってない。オレは、濱野と仲良くやっていこうとしたし、チームメイトに対して興味も関心もある。それは、みんな同じだろ?」


 オレがみんなに聞くと東、岩田、杉本は、頷く。


「そっか、それならよかった……。平坂君、私も変わることに協力するよ。私も本気でこのチームで上を目指したいから!」


 いつも大人しい所谷が今日は、大きな声で宣言した。


「なら、決まりだな。みんな、これからは、チームメイトに対して遠慮しない。それでいいか?」


オレは、最終的な決断をみんなに任せる。すると、全員が頷き賛成の意思を示した。


「じゃ、一旦オレらに関しての話しは終わりだ。次は、濱野に関してのことだ。濱野は、昨日小野寺から謝罪を求められていた。おそらく濱野と小野寺は、過去に何かあった。それと濱野がリーダーとして無理することは、関係する……そこでオレは、濱野に過去に何があったか聞こうと思う。もちろん、無理して聞くわけじゃない。本人が嫌なら聞くのを諦める……。だが、踏み込めるところまで踏み込むつもりだ」


「一華ちゃんの過去……。私も気になってた。一華ちゃんのことは、平坂君に任せてもいいかな?一華ちゃんのことよくわかってるのは、多分平坂君だと思うから」


 所谷は、オレに頼んだ。

 確かにオレは、今まで濱野を誰よりも一番にサポートしてきた。自分で言うのもなんだが一番の理解者ともいえるだろう。


「僕も濱野さんに聞くというなら平坂君が適任だと思います」


 東は、所谷の意見に賛成した。


「というか、オレ、驚いたことがあるんだ。平坂がこんなにもチームのことを思っていたなんて思わなかったからさ。平坂ってそのあんまり自分を表に出さないじゃん」


 杉本は、オレに言う。


「確かに……な。オレ自信も驚いている。気づけばこのチームで1位を本気で目指したいと思うようになっていたんだ」 


 チームを結成した頃のオレは、こんな仲良しチームみたいなオレ達に果たして上を目指すなんて出来るだろうかと自分に問うことが何度もあった。だが、濱野の頑張りを知っていくうちにもしかしたら夢じゃなく現実になるんじゃないかって思い始めた。


「任せたよ平坂君!」


 岩田は、そう言って俺の肩をポンッと叩いた。


「あぁ、できる限りのことはするよ」


 その後、話終えたオレ達は、しばらく雑談し、解散することになった。



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