第90話 1位の人の悩み

 ─────昼食終了後。


『それは、いいものが見れましたね』


「けどさ、大山のこと調べていくうちにあいつがどんな奴かだんだんわからなくなってくるんだ。千佳、大山は一体何者なんだ?」


 松原は、電話相手である千佳に尋ねた。


『たとえ楓君でも私の口から大山君のことを語ることは出来ません。ですが、これだけは言えます。彼は私より優秀な生徒です』


「優秀ね……まぁ、確かに誰よりも先に誰が『話題』が違うか当ててたしな。あれは、相当の推察力がないと出来ないはず」


『まぁ、そんな大山君のいるチームに私達が負けるつもりはありません』


「そっか……あっ千佳、来たから電話切るぞ」


『わかりました。では、よろしくお願いしますね』


「あぁ、またな」


 そう言って松原は、電話を切った。


「さて、話しかけるか……」


 松原は、その場から離れ、目的の相手へと近づいた。



───────────



「やっと帰ってきた。これで集中して勉強が出来るわ」


 宿泊場所から学校へ戻ってきたオレ達1年生は、寮へ戻っていく。そんな中、オレの隣で近藤は、疲れた表情でいた。


「近藤のチームは、なかなかのメンツだったみたいだな」


「えぇ、もう大変よ。あなたこそ大変だったんじゃないの?」


「オレはそこまで……松原が上手くチームをまとめてくれたおかげで困ったことは特になかった」


「へぇ~松原君が……」


 松原を苦手とする近藤は、疑わしい目で言ってきた。


「近藤、少し話したいことが──」


 オレは、近藤にそう言いかけた時、オレと近藤の前に1人の生徒がやってきた。


「お疲れ様2人とも。どうだった?」


 そう言って声をかけてきたのは、村上だった。


「どうと言われましても……いい経験にはなりましたけど、大変でした」


 近藤は、村上の質問に答えた。


「そうかそうか。オレも去年やったけどあまりいいものは、得られなかったな。人前に立つことも積極性もオレには身に付いてたしな。だからこの学校は、もう少し面白いことをしてほしい。今ある行事や授業のやり方じゃオレには、物足りない」


 物足りない……か。隣で近藤は、村上の言葉に理解できない……そういった表情でいた。


「もしかしてさっきおっしゃったことと村上先輩が生徒会長になったことは、関係していますか?」


 オレがそう聞くと村上は、ふっと笑った。


「まぁ、半分当たりかな。1年生のから学年のリーダーをやっていた話は前にしたよな? リーダーをやったら何か得られる……オレはそう思ったんだ。だが、結局何もなかった。言い方が悪いが、学年を支配することが出来ても何かが得られるわけじゃない。上にいる者は、上にいるせいで何かを目標にすることが難しいんだ。誰かがオレの順位を抜かしてさえしてくれれば解決するかもしれないけどな」


 これが1位であり続ける人の1番の悩みといったところか。


「村上先輩は、凄いですね。完璧な人間ってこういう人のことを言うんですね」

 

 近藤は、村上の話を聞いて感想を述べる。


「近藤、完璧な人間なんていると思ってるのか? オレにだってまだまだ足りないものは、ある。それが何かわからないがオレは、見つけるために日々努力を重ねている。頑張ることに終わりなんてない」


 村上がそう言うと近藤は、何かに気づいたようにハッとしていた。完璧な人間なんていない……か。そう言えばあの人が言っていたな……。


「そう言えば村上先輩、なぜオレ達に声をかけてきたんですか? 何か用があったんじゃないですか?」


 オレが、村上に尋ねると本人は、忘れていたような反応をしていた。


「いらない話をしてしまったな。まぁ、用事は、また今度でもいいし、またな大山、近藤」


 そう言った村上は、立ち去って行った。


「用ってなんだったのかしら?」


「さぁ、なんだろうな……」


「ところで大山君。この後時間あるかしら?」


「まぁ少しなら……」


 オレも丁度近藤に話したいことがあったしな。


「じゃあ、一度寮に戻ったらいつものカフェで待ち合わせね」


「あぁ、わかった……」


 こうしてオレと近藤は、一旦解散した。

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