第89話 近藤と北原の勝負

 1学年特別テスト最終日。


「はぁ……」


 朝食を食べ終え、1人で学食で勉強していた私ー近藤彩沙は、大きなため息をついた。

 チームに仕切るような指導者が2人もいるとやっぱり疲れるわね。

 特に三条君……。

 気に入らないことがあればすぐに突っかかってくる。

 雨野さんは、雨野さんで三条君の意見に絶対に賛成せず新たな意見を述べる……。

 そのせいで2人の言い争いをこの5日間嫌ほど見てきた。

 当然その言い争いの間に入ることが出来ないので誰も止めることが出来ない。

 私も最初は、止めようとしていたけど、それがだんだんバカらしくなってきた。

 今日でこの1学年特別テストも終わり。

 今日を乗り切ればまた落ち着いた1人の時間が過ごせ


「あっ、彩沙ちゃん! 何してるの?」


「……あなた私の幸せな時間を奪う気?」


 私は、そう言って北原さんに尋ねる。


「えっ、何のことかな?」


「何でもないわ、忘れて……」


「う、うん……。凄いね、こんな時でも勉強なんて」


「真面目で悪かったわね。あなたみたいな人にとって私は、真面目で面白くない人でしょ?」


 私がそう言うと一瞬北原さんは、ドキッとしたような表情をした。


「私、真面目な人好きだよ。コツコツ頑張ってて私にはマネ出来ないし……尊敬してる」


「ねぇ、前から思ってたけどあなたそうやって私に対して明るく振る舞っていて疲れないの?」


「疲れる? もしかして彩沙ちゃんは、私がわざと彩沙ちゃんに明るく振る舞っていると思ってるの?」


 北原は、いつも通り優しい表情のまま聞く。


「えぇ、そうよ。あなたは、濱野さんみたいに善人で明るく皆に振る舞っていないと私は思っているわ」


 私の言葉に北原さんは、下を向き何か考えていたがすぐに口を開いた。


「……確かに私は、一華ちゃんみたいに素で明るく振る舞ってないよ。けどね、彩沙ちゃん……この世の中、自分を少しでも偽らないとやっていけないと思うの。彩沙ちゃんだってそういうのあるんじゃないの?」


「ないわ。私は、いつでも素直な自分でいてるつもり……自分を偽ったことなんてないわ」


「そっか……やっぱり彩沙ちゃんと私は、仲良くなれなさそうだね」


「えぇ、そうね」


「けどね、私は彩沙ちゃんと仲良くなれるように努力することを諦めないよ」


「そう……好きにして」


「うん、そうする。じゃあ、勉強の邪魔しちゃ悪いし私はここで……」


「待って」


「えっ?」


 私は、立ち去ろうとした北原さんを止めた。


「今度の学年末考査で私と勝負して」


「ほ、本気? やるかどうかは別として彩沙ちゃんが勝つに決まってるよね?」


「それは、どうかしら。勝負教科を1つにしたらあなたが勝てる可能性はある。例えば北原さん、あなたの得意な教科は?」


「えっーと数学かな」


 北原さんは、とりあえず私の質問に答えた。


「そう。それならいい勝負になるわね。私は、数学は、苦手なの」


「そうなんだ……で、なんで急に勝負を?」


「この勝負……勝ったら相手に1つお願することができるっていうのは、どうかしら? それならもしあなたが勝ったとき私に友達になってほしいと言ったら私はなってあげる」


「へぇ~………面白い勝負だねっ。いいよ、その勝負受けて立つよ」


 北原さんは、笑顔で勝負を引き受けた。


「わかったわ。なら勝負教科は、数学。勝った方が負けた方に一つお願いを言う……これでいいかしら?」


「うん、いいよ。やるからには負けないよ」


「えぇ、私も負けるつもりはないわ」


「じゃあ、行くね。バイバイ」


 北原さんは、手を振って私の前から立ち去った。


「あの子、やっぱり苦手だわ……」


 私は、小さく呟き勉強を再開した。

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