第70話 松原楓の過去

オレと千佳が海に行っていた頃、笠音は、1人でショッピングモールにいた。


「よう、笠音。偶然だな」


「うわ、最悪なんだけど」


笠音は、嫌そうな目で松原を見ていた。


「雨野は、一緒じゃないのか?」


「冬休みまで一緒にいる必要ある?私は、1人がいいの。わかったなら早くどっか行って」


「そんなに雨野のことが嫌いなのかよ」


「松原にとって千佳は、お気に入りみたいだけどなんで?」


「オレは、雨野に初めて会った時、言われたんだ。このチームにいたら面白いものが見れるって。そしてこうも言ったんだ……必ず1位になると」


松原は、そう言って笑った。


「それ、私も言われたわ。松原は、その言葉を信じてるの?」


「そりゃもちろん。まぁ、半分信じてないけどな」


そう言った松原は、雨野と初めて出会った入学式の時のことを思い出した。


──────────


入学式終了後の放課後、オレは、寮へと帰ろうと学校を出るとなにやら人が集まっていた。


「雨野さん、私とチーム組んでくれませんか?」

「あ、あの!オレとチームを………」 


「チームの勧誘か?」


気になったオレは、人の集まっているところに行くと1人の女子生徒を見かけた。

その子は、いろんな人から勧誘されるがすべて断っていた。

すごい人気者だな……。

しばらくその近くいると、だんだんと人だかりがなくなっていき、そこには、さっきいた彼女一人になっていた。

よし、話しかけてみるか。


「入学早々、人気者だな」


オレは、初対面にも関わらず気軽に話しかけた。


「見ていたのですか?」


彼女は、驚くようにオレに尋ねる。


「あぁ、見てた。名前は?」


「雨野千佳です。あなたは?」


「松原楓だ。雨野は、なんでいろんな人からのチームへの誘いを断っていたんだ?」


「私には、すでに1人、チームを組んでいる方がいますので他のチームに入るつもりはないんです」


「なるほどな」


雨野千佳って確か、入学試験で1位だった人だよな?


「松原君は、もう誰かと組まれましたか?」


「いや、まだ。入学初日から頑張るとかめんどいし明日からでいいかなと……」


オレは、適当に答えると雨野は、笑った。


「めんどくさいですか……松原君、1つ聞いてもいいですか?」


「ん?なんだ?」


「さきほどめんどくさいと言っていましたが本当は、いろんな生徒を観察し、どこのチームに入ろうか考えていたんじゃないですか?」


オレは、図星をつかれ思わず笑ってしまった。


「オレの嘘は下手か?」


「いえ、下手ではありません。凄く自然でした。

相手が私でなければ気付かれることはなかったでしょう。ところで松原君、良ければ私のチームに入りませんか?」


雨野は、そう言ってオレの目の前にてを差し出す。


「勧誘の理由は?」


「そうですね。私は、あなたのことが気に入りました」


「フッ、奇遇だな……。オレもお前のこと気に入った」


「では、入ってくれますか?」


「あぁ、もちろん」


オレは、雨野の手を握り返した。


「このチームに入ったからには、面白いものをあなたに見せてあげます。そして必ず1位へと導きます」


「へぇ~それは、楽しみだ」


これがオレと雨野の出会いだった。


─────────


「私も同じ。千佳の言葉は、半分信じてる」


笠音は、松原の話を聞いた後呟いた。


「そう言えばさ、笠音って雨野のこと下の名前で呼ぶよな?やっぱり仲がいいんじゃないか?」


「っ!変なこと言わないで」


松原の言葉に腹が立った笠音は、松原のことを睨み付けた。


「あーはいはい、すみませんね。ところでさそろそろ仲良くなってきたことだし笠音のことを下の名前で呼んでもいいか?」


「はぁ~好きにして……。けど、私は、松原と仲良くなかった覚えはないわよ」


「ひどいな……じゃあ、1人の時間を邪魔しちゃ悪いし、立ち去るよ。またな穂乃果」


そう言って松原が立ち去った後、笠音は、ポツリと呟いた。


「………違和感しかない」

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