第65話 君に勝つための戦略があるようにオレにも勝つための戦略がある
学年別の一騎打ち試験3日目の12月12日、放課後の空き教室。
「あまり変わりませんね。変わったと言えば、穂乃果さんが楓君になっただけでしょうか」
そう言った千佳は、クスッと笑った。
「確かに2日前と変わらないな」
「近藤ちゃん、こないだは、怒らせてごめんよ。あの後、しっかり反省したからさ仲良くしよ」
松原は、そう言って腕組みをしている近藤へ近づく。
「嫌よ。あなたみたいになに考えてるかわからない人とは、出来るだけ関わりたくない」
「近藤ちゃんって笠音とそういう態度が物凄い似てるな……」
松原がオレが思っていたことと同じことを思う。
「楓君、近藤さんとの雑談もよろしいですが、ゲーム中は、控えめでお願いします」
話すことをやめそうにない松原に千佳は、注意する。
「わかった、雨野の邪魔はしないから安心して大山とのゲームを進めてくれ」
───────────
「では、始めましょうか大山君」
千佳は、今から面白いものが見れるような表情をしていた。
「そうだな。後藤田先生、カードを配ってくれませんか?」
立会人の後藤田陸先生にオレは、頼む。
「あぁ、わかった。雨野と大山からの希望のためトランプは、こちらで用意したものを使う」
後藤田先生は、そう言ってオレと千佳にカードを配っていく。
今回、人数が2人のためジョーカーが誰が持っているかは、わかる。だからもし、最初にジョーカーを持っていた場合、上手く最後の方に自分の手元からジョーカーを離さなければならない。千佳にも自分なりに戦略はあるだろう。だからこっちも自分が考えた戦略でいくとしよう。
「じゃあ、あとは、近藤と松原に頼むぞ」
そう言って後藤田先生は、椅子へ座った。
「ルールは、言わなくてもいいわよね?最後、ジョーカーを持っていた人が負け。じゃ、いつでも始めて」
近藤がそう言い、ゲームを始めることにした。
オレは、さっそく自分の手元を見て、同じ数字を見つけカードを捨てていく。8枚か……なら、千佳は7枚。もちろんジョーカーは、オレの手元だ。
「ジョーカーは、あなたの手元ですか……。少し、残念です。考えていた戦略があったのですが変えなければなりませんね。ところで大山君、この勝負、早く終わりそうなのでゆっくりとおしゃべりしながらしませんか?」
「あぁ、別に構わない」
「近藤さんと楓君もせっかくですし、お話しましょう。監視者がアドバイスをしてはいけないルールは、ありますが雑談をしてはいけないというルールはない……そうですよね?後藤田先生」
そう言って千佳は、後藤田先生に確認を取る。
「あぁ、そうだな……」
「では、始めましょ」
千佳は、オレの手元のカードを一枚取り、番号が揃ったのでカードを2枚捨てた。
「そう言えば、楓君。江川君に勝ったそうですね」
「あぁ、江川とはいい勝負が出来たよ。」
そうか……江川は、松原とサッカーをやったんだったな。
「松原君は、何か部活をやっているの?」
近藤は、気になったのか松原に尋ねた。
「今は、どこにも入ってない。中学の時は、サッカー部に入ってた」
「そう。なら、勝ててもおかしくないわね」
近藤は、納得したような顔をした。
「大山は、何か得意なスポーツは、あるか?」
「いや、スポーツは、得意じゃない」
「ふ~ん。そうか……」
松原は、オレの言葉に納得していない様子だった。
「近藤ちゃんは?」
「私は、バスケよ。ところでその呼び方やめてくれない? せめて呼び捨てにして」
近藤は、気に入らなかったようで松原に言う。
「それは、無理なお願いだな。ちゃん付けの方が可愛くていいじゃん」
「可愛い? どこがよ……じゃあ、あなたは雨野さんのこともそうやって呼べるの?」
「いや、それは……」
松原は、嫌そうな顔をし、チラッと千佳のことを見た。
「今だけなら構いませんよ」
目線に気づいた千佳は、呼ぶことを許可した。
「わかったよ。しっかし、近藤ちゃんがこういう奴とは思わなかった」
「何よ。こういう性格で悪かったわね」
「いや、別にそういうわけで言ったんじゃないんだが」
松原、近藤相手だとかなり振り回されてるな。オレは、2人のやり取りを見ているうちにすでに手元のカードは、残り2枚となっていた。千佳は、残り1枚。つまり、ここで千佳がジョーカーを引かなかったら千佳の勝利となる。
「大山君、ジョーカーが一向に動かないので焦ってますか?」
千佳は、嬉しそうにオレに聞いてくる。
「まぁな……」
オレは、手元をシャッフルし、千佳の前に出す。
「では、勝たせてもらいますよ」
手元にあるハートの2とジョーカー。千佳は、迷わずハートの2の方に手を伸ばした。
「はいっ、上がりです。私の勝ちですね」
机の上にバサッとハートとダイヤの2のカードを出した。
「大山君、どうでしたか?」
「どうって……」
オレが返事に困っていると千佳がオレに近寄り小さな声で話した。
「わざと負けましたね?」
「なんのことだ?」
「嘘が得意な大山君でも私に嘘は通じませんよ?」
そう言った千佳は、少し満足そうな顔をしてオレから離れた。
「楓君、終わったことですし帰りましょうか」
「あぁ……」
松原は、オレのことを一瞬見たがすぐに目線をそらした。
「そう言えば、あの呼び方は、してくれないんですか?」
千佳は、ニヤニヤしながら松原に言う。
「ちゃん付けのことか……あ、あま……」
「あま?」
「リーダー、行くぞ。笠音と待ち合わせだろ?」
この空気に耐えられなかった松原は、そう言って教室を出た。
「あともう少しでしたのに……。大山君、近藤さん、また明日」
千佳は、後ろを振り返って一礼し、教室を出ていった。それを見て近藤は、話しかけてきた。
「今さっき雨野さんに何か言われてなかった?」
「まぁ、ただ、面白い勝負が出来たと言っていただけだ」
「そう……」
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