第66話 2年生だけの特別ルール
学年別の一騎打ち試験11日目の12月20日、放課後の空き教室。
「大山、監督者引き受けてくれてありがとな」
村上は、そう言ってイスへと座る。
「いえ、今日は暇だったんで……」
「そう言えば、大山は、雨野と勝負したらしいな。どうして勝負を引き受けたんだ? 相手は、学年1位だぞ?」
オレと千佳が勝負をしたことを知っているのか。一体どこで知ったんだ? 千佳が村上に言った可能性が一番高いが……。
「学年1位だからと言ってなんでも勝てるわけがないと思ったからです。まぁ、負けてしまいましたが……」
「なるほどな……。おっ、やっと来たな」
村上は、教室に訪れた佐々木に手を振る。
「またせたな、村上。ちょうどそこで田口先生と会ってな」
佐々木は、一緒に教室に入ってきた立会人の田口涼真先生といたことを言う。
「じゃ、みんな揃ったことだし、やるか」
村上は、机に盤と石を用意した。今回村上と佐々木がやるのは、「オセロ」。ルールは、特別なものは、何もない。
「佐々木、先行は、お前に譲る」
「いいのか? いや、先行いかしてもらうぞ」
佐々木は、一瞬先行を譲ったことに対して警戒したが、ここは素直に先行でいかせてもらうことにした。
「大山、特にすることないだろうし、イスに座って適当に何かしていてもいいぞ」
村上は、なにもせず立っているオレに声をかけた。
「あっ、はい……」
適当って何すればいいんだよ。とりあえず、イスに座りオレは、村上と佐々木のゲームを見ることにした。
──────────
「そう言えば、村上。今年もまたやるんじゃないだろうな?」
佐々木は、ゲーム途中、急に話し出した。
「ん~どうかな。せっかく仲良くなれた友人を失うのも惜しいからな」
一体、なんの話だ? それにまたってなんだろうか……。オレは、2人の会話がわからず、黙って聞くことにする。
「佐々木は、オレのやり方に不満か?」
「いや、不満ではない。お前のおかげで救われているところはある。だが、お前のやり方は、少し雑すぎる。もっと他の方法はないのか?」
「雑って……今のところ他の方法でやるつもりはない。今年も去年と同じ方法でやるつもりだ」
「そうか。あまり大袈裟なことは、起こすなよ」
「敵対している奴にそんなこと言われたら違和感しかないな」
そう言って村上は、笑う。
不思議だな……敵対している者同士の会話とは思えない。それにしても会話の内容が一切理解できんな。
「大山、今の話、気になるか?」
村上は、突然、オレの方を見て聞いてきた。
「いや、まぁ……少しは」
心を読まれたか?
「じゃ、特別に教えてやるよ。オレら2年生だけの特別なルールをな」
「特別ルールですか?」
「あぁ、学年リーダーであるオレは、去年、2年生だけのルールを1つ作ったんだ。ルールっていうのは、2学期までの成績が悪い奴を強制退学にすること」
即退学……か。しかし、生徒一人でそんな簡単にルールをつくれるものなのか?
「どうしてそんなルールを作ったんですか?」
オレがそう尋ねると村上から意外な答えが返ってきた。
「面白いからだ。成績の悪い奴は、この学校に必要ない……お前もそう思うだろ?」
村上は、オレが頷くのを見越して聞いてくる。
「オレはなんとも言えませんね。それよりよくそんなルールが認められましたね」
「オレも認められるとは思わなかった。けど、一番に認めてくれたのは、理事長だったんだ」
理事長……あの男か……。あの人なら認めるのもおかしくないな。生徒や先生に認められたのは、村上が信頼されているからだろう。
「そうなんですか。今年も……と仰っていましたがつまり2年生は、退学者がそろそろ出るということですか?」
オレは、村上に尋ねた。
「それは、どうかな……オレが1年前にそのルールを同級生全員に提案してルールが認められてから2年生の成績は驚くほどに上がった。だから今年は、誰もいないかもな」
つまりそのルールが脅しになり、生徒達の成績を上げた。だが、それって村上にとってデメリットしかないんじゃないか?
「あのルールも最初の頃は、何でそんなルールを作るんだって同級生は、ルールに反対していた。けどな、今じゃその逆……反対していた奴らは、オレに感謝の言葉を言い始めたんだ。村上のおかげで成績が上がったってさ。オレは、別にお前らの成績を上げるためにルールを作った訳じゃないのにな」
村上は、そう言って苦笑い。なるほど……村上にとってルールを作った効果は、理想と逆になったんだ。
「そのルールのせいでライバルである同級達の成績が上がってしまったのならそのルールを無くせばいいんじゃないですか?」
オレは、村上に提案してみた。
「それもそうだな。だが、オレはルールを作った時からそうなることは、想定していた。だからルールを無くすには、まだ早い」
想定……か。先を読んでての行動……なかなか出来るもんじゃないと思うが。
「そうなんですね。佐々木先輩は、そのルールに対して何か思わないんですか? 作った本人がいる前で聞くのもあれですけど……」
「何も思わんな。村上の行動は、誰にも止めれん。ただ見ることしか……」
もしかしたらオレは、村上のことを甘く見ていたかもしれない。
学年のリーダーをやりつつ生徒会長もやっていて学年の中心人物であることは、わかっていた。
だが、今日話していてる限り村上は、2年生をまとめる存在ではな く、2年の生徒達を支配しているような存在に近いことがわかった。
今は、そうかもしれないが、村上は生徒会長……いずれ全校生徒までも巻き込む可能性は、高い。となると、村上は、危険人物だな。
「どうだ? 先輩からのいい話は、聞けたか?」
村上は、オレに聞いてきた。
「はい。やっぱり今日話した内容は、他の人には言わない方がいいですよね?」
「いや、別に重要な内容でもないし、他の奴らにも話してもいいぞ。雨野や三条、木之本とかもどうやら知っているようだし……」
「そうですか……」
なら、情報共有として近藤にこの話をするとしよう。
「おっ、話している内にオレの勝利だな」
村上は、そう言って盤と石を片付けだした。
「本当にムカつく奴だな。オレは、お前が何も考えず勝利しているようにしか見えん」
負けた佐々木は、村上の表情を見て少し不機嫌になっていた。
「それは誉め言葉?まぁ、何でもいいけどさ」
話しながらゲームを観戦していたが、村上は、負ける予感一つさせなかった。
「よしっ、佐々木。今から一緒にボーリングしに行こうぜ」
村上は、カバンを持ち佐々木の肩をつかむ。
「わかったよ」
佐々木は、嫌な顔一つせず、村上と一緒に教室を出た。
「学年によってやり方は、それぞれ。大山と言ったな? あいつと関わればお前も巻き込まれるぞ」
村上が去った中、2年4組の担任、田口先生は、オレに言った。
「どうしてオレに忠告するんですか?」
「先生も巻き込まれつつあるからな。ストッパーでもいればいいんだが……」
田口先生は、そう言いながら困った顔をして教室を出た。
「巻き込まれる……か」
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