第56話 意外な訪問者

 午後の8時、オレは、濱野に一件のメールを送り部屋の明かりを消そうとしたその時、インターホンが鳴るのではなくドアをコンコンと叩くような音が玄関から聞こえてきた。


「誰だろうか……?」


 警戒しながらおそるおそる玄関のドアを開けるとそこには、武内がいた。


「武内……何のようだ?」


「少し話したいことがある。今からいいか?」


「明日じゃダメか? オレは、もう寝たいんだが……」


「今じゃなきゃダメなんだ。チームメイトには、聞かれたくないからな」


 チームメイトに聞かれたくない話か。なら、断るわけにはいかないな。


「わかった。聞かれたくないというならオレの部屋でいいか?」


「あぁ、お願いする……」


 武内をオレの部屋へ入れてオレは、さっそく話を聞くことにした。


「オレと雨野のことなんだが……。オレは、好きで雨野の傍にいるわけじゃない」


 何を話すかと思えば2人の関係性か。少し気になっていたから興味があるな。


「じゃあ、どうして武内は、どうして雨野の側でいるんだ?」


「これは入学式が終わった後の話なんだが──」


────────────


「1組の武内康二君ですよね?」


 入学式が終わり生徒達が教室や寮に戻る中、一人でいたオレに彼女は、声をかけてきた。


「あぁ、そうだが……」


「初めまして、1年2組の雨野千佳です。あなたにお話したいことがあるのですが、よろしいですか?」


 同級生だというのに丁寧な言葉遣いにオレは、少し驚いていた。


「少しなら構わない」


「では、人のいない体育館裏で話しましょう」 


 そう言って雨野は、体育館裏へと歩きだす。

 なんで人のいないところを選んだのかその時のオレにはわからなかった。


「そう言えば何でオレの名前を知ってるんだ?初対面だろ?」


 オレは、前を歩く雨野に尋ねる。


「だいだいの人の名前と顔は、覚えています。少しでも早く同級生と仲良くしたいので」


 彼女は、そう言うがオレには嘘にしか聞こえなかった。


 なぜなら今日は入学式だ。名前と顔を覚えるには、まだはやい。それに他クラスとなれば……。


「ここなら誰も来ませんね。では、話しましょうか」


 雨野は、辺りを見回した後、オレの方を見た。


「武内君は、もうチームは組みましたか?」


「いや、まだだ。これから探そうとしていたところだ」


「なるほど。なら、遠慮はいりませんね」


 雨野は、そう言ってクスッと笑う。


「武内君、もしよければ私のチームに入りませんか?」


「雨野の? 何でオレなんだ?」


「あなたは、私のチームに必要なんです」


 正直に言ってオレは、この言葉が信じられなかった。

 初対面の人にそんなこと言われても必要とされているとは思えない。


「そう言ってくれるのはありがたいんだが断るよ」


「そうですが。断るというなら、これを学校全体にばらまいてもいいんですね?」


 雨野は、スマホの画面を武内に向け、一つの動画を見せてきた。


「っ!! な、何だよ、この動画」


 オレは、驚きが隠せず思わず口に出た。


「とても動揺されてますけど、大丈夫ですか?」

 

 雨野は、少し楽しそうにオレを気にかけてくる。


「これは、入学試験の時に設置されていた防犯カメラの映像の一部です。これを見たときは、さすがに私も驚きましたよ。驚いたと同時に私は、この行動に感心しました」


 雨野は、一人で話を進めていくがオレは、一番知られたくなかったことをここで話されて何も言えなくなっていた。


「そ、その動画……雨野以外は見たのか?」


「いえ、私だけです。あなたが私のチームに入ってくれるならこの動画を削除し、あなたの秘密は誰にも話さないと今ここで約束します。さぁ、どうされますか?」


「これは、脅しか?」


「えぇ、そうです。さきほど言いましたがあなたは、私のチームに必要なんです。どんな手を使ってでもあなたをチームに入れます」


 なぜ、オレが必要なのかは詳しく話してくれないのか……。だが、今ここで断ればオレの高校生活は、終わる。選択肢は一つしかないようだ。


「わかった。雨野のチームに入るよ」


「ありがとうございます康二君。これからチームメイトとしてよろしくお願いします」


「あぁ、ところで本当に削除してくれるんだよな?」


「心配ならあなたが消してください」


 雨野は、そう言って自分のスマホをオレに渡した。オレはさきほど見せられた動画を削除した。


「はい、返す」


スマホを雨野に返すと尋ねてきた。


「これで心配事はなくなりましたか?」


「あぁ、なくなった」


「それならよかったです」


 オレは、なくなったと言ったが心配事はなくなっていない。雨野は、オレの秘密を誰にも話さないと言ったが、いつかばらされるという可能性は、なくはない。


「これから3年間が楽しみですね」


 雨野は、笑顔でそう言うがオレにとっては、地獄でしかなかった。いつばらされるかわからない秘密を抱えて3年間も過ごすとなれば……。


 こうしてオレは、雨野のチームに入った。そしてオレは、1つ対策することにした。雨野がもしオレの秘密を誰かに暴露した時の対策を……。それは、出来るだけ雨野の側にいて信頼をえること。

 

 当然チームを抜けるような行動、雨野が気に入らない行動を起こせば、雨野はすぐにオレの秘密を誰かへ言うだろう。


 だから、オレは雨野に敬語を使ったり、出来るだけ言われたことはやろうと決めた。雨野の側によくいるのは、雨野を監視するため。理由は、いつオレの知らないところでオレのことを話されるかわからないからだ。


────────────


「これがオレと雨野が出会った頃の話。そして雨野の側にいる理由だ」


 武内は、話終えオレの反応を見た。


「脅されてチームに入ったのか。それは知らなかった」


 オレは、雨野が武内を脅した時に見せた動画がどんなものか気になったが聞くのはやめた。


「けど、どうしてそれをオレに教えてくれたんだ? 話したことによって武内はオレにも弱みを握られたことになる。武内と雨野がそういう関係であることをオレは知ってしまった」


「雨野に過去を大山に言えと言われたんだよ。まぁ、オレがお前に話した理由はあまり聞かないでくれ。後、さっきオレが話したことは誰にも言うなよ」


「わかった……」


 利用価値があれば言うが今は必要ない。


「じゃあ、そろそろ帰るよ」


 武内は、用が済んだのか部屋を出ていく。





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