第55話 警告

 後夜祭が終わり、オレは千佳と一緒に寮へ戻った。


「今日は楽しかったですね」


「そうだな……」


「一樹君、どうかされましたか? さきほどから何か気にしているようですけど……」


「雨野、少し用が出来た。先に帰ってくれ」


「わかりました。大山君、また明日」


 オレは、寮に帰らず学校の方へと足を向けた。


────────────


「ここにいたか」


 オレは、噴水前で一人座っている濱野に近づいた。


「大山君……」


 明らかに濱野は、いつもみたいに明るくなかった。


「何かあったみたいだな。後夜祭の前、濱野と生徒会長が一緒にいるところを見かけたが何か言われたか?」


「まぁ、ね……大山君には、関係ないよ」


 生徒会長に何か言われそして、困っている……

そんなところか。


「1人で解決するのはやめたんじゃなかったのか?」


「やめたよ。けど、これは私の問題。私が解決するの」


「そうか。だが、本当に1人で解決できるような問題なのか?」


「大山君、しつこいよ……。チームメイトでもない君が私に手を差し伸べるのは、間違ってる」


 ここまで言われたら普通の人なら、濱野への心配は失せるだろう。だが、オレはここで引き下がるわけにはいかない。


「いいのか? このまま、相手の思うつぼで」


「それは……いや」


「なら、オレにすべて話せ。生徒会長に何を言われたかを」


 オレは、濱野が逃げないように目の前に立つ。


「……わ、わかった。話すよ」


──────────


「濱野がテスト問題を盗んだ……か。生徒会長もひどいよな。やってもないのに証拠を求めてくるなんて」


 一通り濱野から話を聞きオレは、思ったことを言う。


「証拠なんてないしどうしたらいいかわからなくなって……生徒会長の言う通り交換条件をもとになかったことにしてもらおうと考えたけどそれじゃあ、相手の思うつぼな気がして……大山君、私はどうしたらいいの?」


 濱野は、オレに助けを求めた。


「そうだな。まず一番気になることは、生徒会長が濱野がテスト用紙を持っていたことを知っていることだ。おそらく生徒会長は、誰かから聞いたんだろう」


 その誰かというのは、オレの中で予想は出来ている。

 おそらく雨野……千佳が生徒会長に濱野がそういう出来事があったと伝えたのだろう。

嘘を混ぜて……。


「そうだね」


「濱野、ここは、一度オレに任せろ。濱野が今出来ることは、何も考えず堂々としていることだ。わかったな?」


「うん……ありがとう、大山君」


「礼はまだはやい。せめて終わったあとにしてくれ。じゃあ、オレは帰るから」


「話、聞いてくれてありがとう」


 濱野は、そう言って手を振った。


─────────


「先ほど別れたばかりなのにまた会うなんて思いませんでした」


 オレは、千佳を寮の外に呼び出した。


「急に呼び出してごめん……話はすぐ終わるから安心しろ」


「話……ですか。その様子からしてあまりいい話ではないようですね」


「あぁ、その通りだ。千佳、正直に話せ。濱野に何を仕掛けたんだ?」


 オレは、回りくどい聞き方はせずにストレートに聞く。


「一華さんに私が何かしたといいたいのですか?」


「あぁ、そうだ」


「そうですね。私が何か仕掛けたことは、素直に認めましょう。一樹君には、前に私が一華さんのチームを潰すと言いましたね?簡単に言うと私は、一華さんが嫌だと思う出来事を掘り返しました」


 嫌な出来事……か。


「千佳が濱野に何をしてもオレは気にならないが、今回千佳がしていることは少しやりすぎだ。チームを崩壊と言ったが、それはつまり濱野を退学にさせると言うことだろ?」


 オレの言葉を聞いた千佳だったが、顔色一つ変えず小さく頷いた。


「一樹君は、今私がしていることをすべてやめろと言いたいのですか?」


「そうだ。もし、ここでやめると言わなければ、オレは……」


 まだ話終えてなかったが千佳は、

「わかりました。やめます……」

と言い出した。


「大山一樹という存在を敵にまわすわけにはいきませんからね。今回のことは、諦めます」


「ほんとだな?」


「嘘をついているように見えますか?」


「いや、見えないな」


「一華さんのこと……一樹君がいる限り私はどうしようもありませんね。ですが、一樹君、濱野一華という存在がこのままいてもいいのですか?今後のあなたの計画の邪魔になるのでは?」


 千佳は、オレから目線を外し尋ねる。


「確かに優秀な濱野は、今後邪魔になるかもな。だが、今はまだ濱野が必要だ。だから、濱野が退学させられそうならオレは必ずそれを阻止する」


「なるほど。これから少し独り言を言いますが一樹君は、この独り言を聞き流してもらっても構いません……。私、一華さんには裏の顔があると思うんです。いつも笑顔である方は、大抵裏の顔がありますし。そこで私は思い付いたんです。一樹君が一華さんを退学させることに反対するなら退学にさせない程度に一華さんに少し嫌がらせをしようと。それなら一樹君も私を止めませんよね?」


 かなり長い独り言をいい終えた千佳は、独り言のはずなのにオレに聞いてきた。


「まぁ、それなら止めないな。やりすぎたことをしないなら……」


「許可がおりましたのでそうしますね」


「千佳、最後に言っておく。今回のことを止めると言ってたがそれは、千佳と協力している三条もだ。三条には、千佳からやめることをしっかり伝えておけ」


「三条君と協力していることがばれてるとは……さすが一樹君です。わかりました三条君に伝えておきます」


「じゃあ、またな」


 オレは、そう言って寮へ帰った。

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