第54話 後夜祭の前に

 後夜祭が始まる中、校舎裏で私、濱野一華は、必死に何かに否定していた。


「ち、違います! 生徒会長!」


「だが、その様子を見たという生徒がいるんだ。それが何よりも証拠だ」


 村上生徒会長は、私が違うと否定しても信じてはくれない。


「本当です。私は、テスト問題を盗んだりしてません」


 何度こう言っても信じてはくれない。

 ならどうしたらいいの?


「そう言いたいのはオレもよくわかる。テスト問題を盗んだと学校側が知ればどうなるかわからないからな」


 どうしよう……はやく誤解を解かないと。

 このままじゃおそらく村上生徒会長は、私がテスト問題を盗んだことを学校側へ言うかもしれない。


「村上生徒会長、さきほど様子を見た生徒がいると言っていましたがそれは誰ですか?」


「それは、答えられない」


「そうですか……どうしたらやっていないと信じてくれますか?」


 私がそう聞くと村上生徒会長は、ふっと笑った。


「そうだな……やっていないと断言できる証拠をオレに見せろ。そしたら信じてやる」


 証拠ってそんなのないよ……。大山君……私、どうすればいいのかな。ダメだ、これ以上大山君に頼ったら……。これは、私の問題だ。私がどうにかしないといけない。


「証拠は……」


「ないのか? なら、信じられないな。生徒会としてもこのことは、黙って見過ごすわけにはいかない。学校側に伝えるのも───」


「それだけは、やめてください!」


 私の言葉に村上生徒会長は、驚く。


「その必死な顔、オレは嫌いじゃない」


 そう言って村上生徒会長は、私を壁へと追い詰めて、肩に手を置いてきた。


「オレは、濱野の言うことをまったく信じていないわけじゃない。もし、証拠がないというならオレが他の方法でこのことをなかったことにしよう」


「他の方法ですか?」


「あぁ、濱野がオレの次の生徒会長になってくれるというなら濱野がテスト問題を盗んだことをなかったことにする」


 生徒会長……。私は、なるつもりはない。

 けど、証拠がない今、こうするしかないよね?


────────────


 生徒会室には、雨野と三条という変わった組み合わせの2人が訪ねていた。


「上位チームのリーダー的存在である君達が揃ってくるなんてめずらしい」


 村上は、目の前に座る2人を見て言う。


「確かにそうですね。いつもは、ライバルですが今だけは協力関係といったところです」


「協力関係か。で、2人は一体オレにどんな話を聞かせてくれるんだ?」


「私のチームメイトが濱野一華さんがまだ実施していないテスト問題を持っているところを見たそうです」


「濱野一華……つまり雨野は、濱野がテストの問題用紙を盗んだといいたいのか?」


「はい、そうです」


「けど、雨野のその一言じゃオレは信じれない。証拠や本人からの言葉がない限りな」


「証拠ならあります」


 村上のその言葉を聞いた三条は言った。


「三条、聞かせてもらおう」


「オレのチームメイトが寮にあるポストに行ったとき濱野が大量のテスト用紙を持っているのを目撃しました。本当は、許可なく写真を撮るなどしてはいけないことは承知しております」


 そう言って三条は、スマホを出して一枚の写真を見せた。


「これが証拠か……確かにこれは、濱野だ。そして拡大したらわかるがこれは間違えなくテスト用紙だ」


「信じていただけてもらえたでしょうか?」


 雨野は、ニコッと笑い三条に尋ねる。


「1つ聞きたいことがある。なぜこの話をオレにしたんだ?」


「信頼されている生徒会長様がこのことを学校側に報告された方が信じてもらえそうだと思ったからです。私たち一年生が言ったとしても学校側は、応じてくれないでしょう」


 雨野がそう言うと村上は、笑った。


「つまりオレに協力してくれと」


「はい、その通りです」


「わかった。この件は、一度オレに任せろ。ところで雨野と三条は、なぜ協力することにしたんだ?」


 チラッと雨野は、三条を見た後、口を開いた。


「そこは、ご想像におまかせします。私と三条君の目的は、濱野一華さんのチームの崩壊ですから」


「なるほど……」


 話が終わり雨野と三条は、生徒会室を出た。


「三条君、とりあえずうまくいきましたね」


「そうだな」


───────────


 時は、三条が雨野に協力関係を結びたいと提案したときへと遡る。

 それは、体育館で木之本の演説をして体育館を出たあとの話。


「三条君、どうかしましたか?」


「待っていたぞ、雨野」


 三条は、そう言ってもたれていた壁から離れる。


「嫌な予感しかしませんね」


「今回は、大丈夫だ。いい話をもってきたからな」


「いい話とは?」


「オレのチームと雨野のチームで協力関係を結ばないか?」


「それは、急な話ですね。具体的には、何を協力するのですか?」


「オレは、濱野のチームを潰そうと思う」


「それは、急な話でとても物騒な話ですね」


 雨野は、思わずクスッと笑った。


「雨野も同じことを考えているんじゃないか?」


「そうですね。私もいずれしようとしていたこと

です」


「なら、話がはやい」


「同じことを思う者同士の協力ということですか。では、私に1つ案があります」


「案? なんだ?」


「濱野一華さんは、小野寺という生徒からまだ実施していないテスト問題をポストへ入れられるという嫌がらせを受けていました」


「受けていたということは、今はないのか?」


「はい、今はもう解決して終わりました。それを今回は、利用します」


「どういうことだ?」


「解決した出来事をもう一度掘り返すんです。一華さんがテスト問題を盗んでいるという嘘を学校中にばらまきます。ですが、急にそんな噂を信じてくれる人はなかなかいません。なので噂をばらまく前に信頼されている生徒会長にこの嘘を話します」


 雨野は、一度に説明をしたため理解しているか三条の表情を見た。


「気にせず話を続けろ」


「おそらく生徒会長にその話をしても簡単には信じてはくれません。そこで私と三条君で濱野一華がテスト用紙を持っていたという証言、証拠の写真を生徒会長に見せる。どうですか?」


 もともとは、一人でやるつもりだったことだが、三条が協力するならもう少し大がかりなことをしようと雨野は思った。


「本当に上手くいくのか?かなり大変な作戦にみえるが……」


「そうですね、なので慎重に進めましょう」


「わかった。オレも出来る範囲で信頼されるような証拠を考えておく」


「ありがとうございます。では、お互い頑張りましょう」


 こうして雨野と三条は、協力関係を結んだ。

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