第57話 同じ趣味を持つ者同士

 時は、遡り今年の5月、松原楓は、あることを頼まれていた。


「山野みゆ?」


 松原は、雨野からその名前を聞いたが同じクラスでもないので名前程度しか知らなかった。


「はい、山野みゆさんです。あの方は、大山君のチームの中で一番優しい方です。そこで楓君に山野さんからチームのことを聞き出してほしいんです」


「つまり山野みゆに接触しろと」


「はい、どんな方法でも構いませんので」


「わかった。けど、どんな方法でやるのがベストなんだろうな……友達程度の関係じゃ素直にチームの情報を教えてはくれなさそうだしな」


「確かにそうですね。なら、恋人はどうでしょうか? そこまでの関係ならば松原楓という存在を信用し、チームの情報を渡してくれるかもしれません」


「じゃ、さっそく山野に話しかけてくるわ」


 松原は、そう言って雨野に背を向けた。


「はい、お願いします」


 まぁ、そんなことで山野と関係を持ったが、それももう終わりだ。松原は、山野を呼び出して言うべきことを伝えた。


───────────


 貴重な休日が終わり、また新たな週が始まった月曜日の朝、オレは、ある噂を耳にした。それは、山野と松原が別れたという話だ。


 もともとあの二人は、お試しで付き合っていたから別れる可能性は、十分にあった。そして、この前、松原が言っていた、この学校じゃ好きだから付き合う奴はあんまりいないという発言があった。その発言から予測するとおそらく別れようと提案したのは、松原の方だろう。

 そんなことを考えながらオレは、図書館へ入った。


 オレは、後ろから誰かついてきていることに気づいたがわざと無視した。

 チラッと見たが確か、三条と同じチームの藤村雅だな。だが、なんでオレをつけてるんだ?


 オレは、借りたい本を借り、出口へ向かおうとした時、後ろから声をかけられた。


「大山一樹君ですよね?」


「えっ?」


 声をかけてきたのは、さっきまでこそこそつけていた藤村だった。


「交流会旅行の時、海で会いましたよね?藤村雅です」


「あぁ、覚えてる……けど、オレは藤村に名前を名乗った覚えはないぞ」


「確かにそうですね。大山君のことは、三条君から聞きましたので」


「そうか……。で、声をかけてきた理由は?」


 つけてきたはずなのに急に声をかける気になった理由も知りたいがとりあえず今は声をかけた理由だけを尋ねる。


「大山君をミステリー映画に誘うためです」


「ミステリー映画?」


 まったく予想していなかった発言にオレは驚いた。


「はい、この前、図書館を訪れた時ミステリー小説を借りているところを見かけまして……もしかしたらミステリー系のものがお好きなのかと……」


「まぁミステリー小説は、好きだ。だいたいのものは、読んでるからな」


「そうですか。私もミステリー小説が大好きなんですよ。なので良ければ一緒に」


 藤村の誘いは素直に嬉しいがオレはかなり警戒している。

 尾行していたはずなのに急に声をかけられ、映画に行こうと誘われたら怪しくて警戒しないわけがない。


「オレなんかより他の人を誘うべきだと思うが……」


「いえ、大山君がいいんです。同じような趣味を持つ方は、あなただけですから」


 藤村は、おっとりした性格とは、裏腹にテンションが高かった。


「なら、一緒に行くか」


 断る理由もないしな。


「ほんとですか? 嬉しいです」


 藤村は、オレの手を取り喜ぶ。

 距離が近い……。


「連絡先交換しません?」


「そうだな。予定とか話したいし……」


 オレと藤村は、連絡先を交換した。


「連絡先も交換しましたし、いっぱいミステリー小説の話をしましょうね」


「そうだな」


 オレは、いつの間にか藤村への警戒心がなくなっていた。おそらく藤村は、人の警戒心を解くのが得意なんだろうな。映画にオレを誘ったことには何も怪しい点はない。

 だが、オレを尾行していたことに対しては、かなりモヤモヤしたままに終わってしまった。


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