第44話 戦うメリット

 カフェには、戻らずオレは、少し校内をふらつくことにした。


 まずは、今ある状況の順番に整理をしよう。1つ目は、雨野のチームは、オレらのチームに勝負を持ちかけてきた理由だな。


 オレがいたから勝負がしたい……おそらくそんな理由ではないだろう。ありえるのは、オレが本気を出させるため。けど、理由まで知らないと思うが雨野はオレがテストの点数をわざと低くしていることに気付いている。これは、一度直接聞いた方がいいかもしれないな。


 だが、松原の言ったことが気になる。会いたくない……確かに松原はそう言った。メールで聞くのにも時間がかかるしここは、電話で聞くとするか。オレは、人気のない場所を探し、そこで電話をかけることにした。


「あっ、雨野? 今、少しいいか?」


『大山君、どうかされましたか? 電話をいただけるなんてとても嬉しいですが……』


 嬉しいか……おそらく雨野の本音だろうな。


「今さっき、オレのところに松原が来た」


『そうですか。電話をかけてきたということは、もしかして返事を聞かせて貰えるのでしょうか?』 


「いや、その前に雨野に聞きたいことがいくつかある」


『答えられる範囲であれば答えます』


「今回、オレらのチームに勝負を持ちかけてきたの理由は、なんだ?」


『やはりその質問ですか。答えは簡単ですよ。あなた達のチームの実力を知りたいからです』


「オレに本気を出せと……」


『まぁ、そういうことですね。あなたが本気を出すことで大山君の計画を壊してしまうことは承知しております。その上であなたにお願いしています。私は、本気のあなたと戦いたいんです。そうでなければいつまでたっても私は証明できない』


「証明?」


『はい、完璧な人はいないという証明です』


「そんな個人的な希望を言われてもな……オレにも事情がある。簡単にはできない」


『そうですよね。あなたには、1教科勝負するだけで限界ですもんね』


 そう言った雨野の声のトーンは、いつもより低いのであった。


「わかった。期末考査での勝負は無理だが別のテストで勝負はどうだ?」


『別のですか?』


「期末考査だと順位や点数が全校生徒にしれわたるからオレは、手を抜く。だが、生徒に結果が知られなかったらオレが手を抜く必要もないわけだ。テスト問題なら丁度作るのが得意な奴を知ってる。それで雨野の希望を少しでも叶えられたらいいなと思うんだが」


 オレのその言葉に雨野は、しばらく黙っていた。


『いいアイディアですね。本当にごめんなさい、大山君。私のわがままを聞いてくださって』


「少しはわがままでもいいんじゃないか?いつも1位になることを考えすぎて自分のことなんて後回し……そうだろ?」


 そう言うと、雨野が小さく笑った。


『あなたの観察力は、人並みを越えてます。気を付けないとストーカー扱いされますよ。まぁ私はなんとも思いませんけど……。あなたがすごい人であることは知っていますから』


「よくわからんが教えてくれてありがとな。じゃあ、雨野のチームとは戦わないことでいいよな?」


『はい、お互い頑張りましょう』


 この学校では、チームメイト以外は敵であることが当たり前だ。

 そんな状況であるなかこうやって頑張ろうと言われると少し嬉しい。


「そうだな」


 オレは、そう一言言った後、電話を切った。


「さて、カフェに戻るか」


 スマホをポケットにしまい、オレはカフェへと向かった。

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