第45話 オレがここに来た理由

「どこ行ってたの?」


 カフェに着くと予想通り近藤が怒っていた。


「少し寄り道をしていたんだ。で、何か話は進んだか?」


「さっき同じクラスの宮瀬さんが私のチームと戦わないかと訪ねてきたわ。宮瀬さんのことは知っているわよね?」


 宮瀬、確か学年6位の奴か。話したことは一度もないが名前くらいは知っている。


「で、近藤はなんて答えたのか?」


「話し合いの結果、宮瀬さんのチームと戦うことにしようということになったわ。後はあなたの返答次第ね」


 オレは、スマホで学校アプリを開き、宮瀬のチームに誰がいるか確認した。チーム順位は、10位。ほとんど差はない。


「いいと思う」


「そう。なら、宮瀬さんには、私が返事を伝えておくわ」


「解散でいいか?」


 そう聞くと近藤は、不機嫌そうに睨み付けてきた。 


「いいわよ。けど、あなたのその態度、すごく気に入らないわ」


「文句があるなら聞くけど」


 オレと近藤のやり取りを聞いていた山野が慌てて間に入ってくる。


「2人ともケンカはダメですよ」


「じゃあ、言わせてもらうわね。あなた、最近、チームメイト以外との交流が多くない? 私、思ったの。あなたは、いつかこのチームを捨てて他のチームに入ろうとしているんじゃないかと」


「ちょっと待って! 大山君がそんなことする人じゃないって彩沙ちゃんが一番よくわかってるよね?」


 北原は、イスからバッと立ち上がり主張するが近藤は、無視して話を続ける。


「大山君、どうなの?」


「前にも言った通りオレは、近藤を裏切るマネはしない。もとはといえばこのチームは、オレが近藤を誘ったことから出来たチームだ。だから、オレはこのチームを抜ける気はない」


「本当?」


「まだ心配か?」


「………」


 近藤は、黙りこみ、辺りが静かになる。


「1つ聞くが近藤は、オレがチームに必要なのか?」


「もちろんよ。あなたがいなかったらここまで上手くいってなかったし私は、1人でチームを組めず退学になっていたかもしれなかった。あなたは、私にとって必要不可欠な存在よ」


 こんなにも近藤に頼りにされていたとは、思わなかった。


「そうか。オレの口から何を聞けば安心できるのか?」


「そうね、あなたが他のチームとの交流をする理由を聞きたいわ」


「理由は、他のチームの情報を得るため。他に理由なんてない」


「信じていいのよね?」


「もちろん」


「わかった。この話はこれでおしまい」


 近藤は、そう言って席を立とうとしたところをオレは止めた。


「ちょっと待て……」


 無意識にオレは、近藤を止めてしまった。理由は、自分でもわからない。だが、聞いてほしいと思った。


「大山君?」


「みんなに話しておきたいことがあるんだ」


「みんなってことは私達も?」


 北原は、私も聞いていいのかと尋ねる。


「近藤、江川、北原、椎名、山野に聞いてほしい。オレがなんでこの学校に来たのかを」


「わかった、あなたが自分のことを話すなんて初めてだもの。聞くわ」


 近藤はそう言って座り直す。


「近藤と椎名は、気付いていたみたいだが、オレはこの学校の理事長の大山寛太の息子だ」


 そう言うと知っていた椎名以外が驚いた顔をした。


「ほ、ほんとですか? 確かに名字が同じですけど……」


 山野は、信じられないのかオレに聞いてくる。


「本当だ。オレは、この学校に大山寛太がいたから来た」


「ただお父さんがいるからって理由じゃないよね?」


 北原は、そう言ってオレが話すのを待つ。


「まぁ、詳しく説明すると長くなるし、みんなに話すことはできない。だか、1つみんなに知っといてもらいたい」


オレは、言うか言わないか迷ったが言うことを決めた。


「オレは、1位になることには興味がない。だが勘違いしないでくれ、オレは、1位になった時の有名な企業の社長になれるという約束に興味がないだけだ。1位を目指したいとは、思っている。いや、オレは、必ず1位を目指さなければならないんだ」


「目指さなければならない……ね。理由は、無理に聞かないでおくわ。今の話、大山君は本当は私達に話すつもりなかったんじゃない?」


 さすが近藤、無理して話していることがわかったのか。


「まぁ、話してもいいかなって思ったから話しただけだ。深い理由はない」


「お互いを知ることは、少しずつでいいんじゃないでしょうか?」


 山野は、チームメイト全員の顔を見て話す。


「みゆの意見には賛成。無理して自分のことをオープンにするのってなかなかできないし」


 椎名がそう言うと北原が頷く。


「誰にだって話したくないことはあるもんね。大山君、今日は話してくれてありがと」


 北原は、ニコッと笑い言った。


「まぁ、よくわからんが、これから三年間やっていく仲間だ。何事もゆっくりやっていこうぜ」


 江川は、そう言ってオレを見た。


「そうね。江川君の言う通りよ。さて、そろそろ帰りましょうか」


 そう言って近藤は、席を立つ。


「ですね。巴さん、少し買い物に付き合ってもらえませんか?」


「いいよ、じゃあまたね。江川、彩沙、大山君」


 椎名は、そう言って山野と一緒に帰っていった。


「大山君は、寮に帰るの?」


「いや、忘れ物を思い出したから学校へ戻る」


「わかったわ。じゃあまた明日」


「あぁ、また明日。近藤、誕生日おめでとう」


「あ、ありがとう」


 近藤は、後ろを振り返らず言うのだった。

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