第25話 三条の企み

 旅行最終日である翌日の朝、オレは、近藤と朝食を食べようと一緒に食堂へ向かっているとロビーで雨野、笠音、武内の三人と三条、豊田、加藤の三人で何やらもめているのを見かけた。


「朝から騒がしいわね」


 それを見た近藤がオレの隣で呟く。


「何かあったみたいだな」


「そうね……」


 オレと近藤だけじゃない。数人の生徒達もその雨野と三条に何があったのか気になり立ち止まって見ていた。


「ひどい話ですよ。チームメイトの藤村さんと村島を最初から見捨てるつもりでチームに入れるなんて」


 雨野は、まるで周りにも聞こえるような声の大きさで三条に言う。


「雨野には、関係ない話だ。まさか、敵対チームである2人に救いの手でも差し伸べたいのか? それならとんだお人好しだな」


「ふふっ、そんなことしませんよ。ただ、面白いことをしているようなので。私が三条君の計画を潰そうとは思っていませんのでそこは安心してください」


「本当か? この計画は、お前のチームメイトである奴が関わってるかもしれないんだぞ」


「知ってますよ。私のチームにスパイがいることぐらい」


 三条は、雨野の発言に首をかしげた。


「スパイがいると知って見逃す理由はなんだ?」


「さて、なんででしょうね」


 彼女は、そう言ってクスッと笑った。


「三条さん、これ以上話すと……」


 加藤は、隣で三条にコソッと耳打ちした。


「そうだな。これ以上、雨野お得意の情報収集をされるわけにもいかないな」


 そう言って三条は、ふっと笑った。


「あなたがどんな方法で1位を目指しても私は、誰にも1位を譲りませんので」


 雨野は笠音と武内を連れて立ち去っていった。



「雨野さんが言うスパイは、おそらくこの前武内君が言っていた氷川さんと松原君ね」


 隣で近藤は小さく呟いた。


「そうだな……」


 近藤の言うことは、間違っている。雨野のチームのスパイは、1人だからな。



──────────



「タイミングが良すぎる」


 雨野達が立ち去った後、三条と豊田は、2人、朝食をとっていた。 


「何が?」


「なぜこんな朝っぱらから雨野が挑発してきたのかがわからないんだ」


「確かに変ね。待ち伏せされてたぐらいだし。早く伝えないといけないような雰囲気が雨野さんにはあった」


「なるほど。豊田、いいところに目をつけた」


 三条は、何かに気付いたのか笑い出した。


「何かわかったの?」


「あぁ、昨夜のオレ達の会話を誰かに聞かれたってわけだ」


「ほんと?……ってことは、昨夜、雨野さんが私達の近くにいたの?」 


 豊田の言葉に三条は、首を横に振る。


「雨野かは、わからない。雨野のチームメイトか、あとは協力者かもしれないしな」


「そう。で、その聞かれたことと雨野さんが朝早くにあんなこといいに来たのとどう関係があるのよ」


 豊田は、肝心なところを聞いた。


「もし、昨夜の会話を聞いていたら雨野は、明日、嘘をつくことは知っていることになる。だから、嘘をつかれる前に嘘をつけなくする状況に雨野はもっていったんだ」


「確かに、今の状況じゃ、私達は、藤村さんと村島さんには嘘をつきにくいわね」


 豊田は、状況を把握した。


「まぁ、いい。今回起きたことは、たいしたことないからな」



─────────



「雨野さんも大変ね」


 朝食をとる近藤は、目の前にいるオレに話しかけてきた。


「オレらも他人事を言ってられないぞ」


「それはどういうことかしら?」


「オレらのチームにも裏切り者がいないとは言いきれないからな」


「確かにそうね。大山君は、このチームに裏切り者がいたとしたら誰だと思う?」 


「北原だとオレは思う。近藤も一番に思いつくのは北原じゃないのか?」


 オレがそう聞くと彼女は、コクりと頷いた。


「北原は、これまで怪しい動きが多かった。オレと近藤がいるチームにこだわったり、妙に近藤と親しくなろうとするところ」


「私も同じ理由よ。北原さん、私以外のチームメイトとは、あまり仲良くする感じがないもの」


 近藤もその違和感に気づいていたみたいだな。

ここで、北原がオレに言っていたことを近藤に話すのもいいが、約束を破るのはかなり危険だ。


「ところで大山君。あなた体育祭のとき、本当に北原さんを保健室へ連れていったの?」


 近藤は、持っていた箸を置きオレの言葉を黙って待っていた。あの時、まさか北原とのやりとりを近藤は、見ていたのだろうか。その可能性はなくもない。


 なぜなら、北原と別れたすぐ後に近藤は、オレの後ろに立っていたからだ。ここは、慎重に話そう。


「近藤は、北原を保健室へ連れていっていないと思うのか?」


「えぇ、そうよ。放課後、私は保健室の先生に尋ねたのよ。今日ここへ来た生徒に北原さんはいるのかと」


 こう聞くことで相手を問い詰めようとしているようだか、残念だったな。保健室に誰が来たのかは、生徒には教えることはできないとオレは知っている。


「で、尋ねた結果はどうだったんだ?」


 オレがそう聞くと近藤は、困っていた。予想していない出来事に戸惑うのは、誰だってある。これ以上からかうのは、やめておこう。


「オレに聞くより本人、北原に聞くのが一番だと思うぞ」


「それは、イヤ。どうせ嘘をついて誤魔化されるだけ」


 まぁ、そうだろうな。オレに聞いても北原に聞いても同じ結果だ。曖昧な返事しか返ってこない。


「ごちそうさま。オレは、昨日、歩き疲れたから部屋に戻る」


 オレは、そう言って席を立ち上がり部屋へと向かうことにした。


 自分の部屋へ続く廊下を歩いていると前に雨野がオレを待ち伏せているのかのように立っていた。声をかけず雨野の前を通りすぎようとすると雨野は、口を開き、一礼してきた。


「昨夜の録音、ありがとうございました。おかげで相手の行動が先に知れて対策することが出来ました。ところで、どうして私にあれを送ってきたのですか?」


 誰から送られてきたかはわかったようだが、さすがに理由まではわからなかったのか。


「お前と交渉するためだ」


「交渉?」


「オレは、三条のチームの情報を雨野に提供した。だから、オレのことを誰にも話すな」


「一方的な交渉ですね。勝手に交渉内容を決めるなんて……。けど、そういうの嫌いじゃありません。大山君、少し2人で話しませんか?おそらくもう気付いているようなので





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