第23話 ある作戦

 ────7時30分、女子更衣室前。


「今日は疲れたね」


 北原は、自分の服を持って更衣室へと入る。


「ほんとそれ~。探すのって以外と大変」


 クラスメイトの栗山は、言う。


「ここの温泉広くていいよね~。ここで今日の疲れとろ~」


 同じく同じクラスの薄井は、2人の後をついていく。


「今って3組と4組が入る時間だよね?」


 栗山は、隣にいる北原に尋ねる。


「そうだよ。この後、1組と2組が入るらしいから長居はできないね」


 北原は、そう言って笑う。


「いやーこの学校はアホな男子がいなくてよかったよ」


 薄井がそう言うと北原は、首をかしげる。


「ん? どういうこと?」


「中学のとき、男子数人が女子更衣室を覗き見しに来たのよ。あのときは最悪だったよ」


「それは、嫌だね。けど、うちの学校でそんなことする人はいなさそうだけど……」


「だよね~いないよね」


 

 ────女子更衣室近くの階段。


「おい、見たか」


「あぁ、3組と4組の女子が入っていった」


「狙うのは、お風呂上がりだ」


「スマホの準備は、オッケーか?」


「オッケーだ」


 3人の男子生徒が隠れてこそこそ話しているのを通りがかったオレは、見てしまった。


 何の集まりだろうか。オレのクラスの男子だということはわかる。確か、宇野と渡辺と宮下か。


「何してるんだ?」


 オレは、3人に声をかけてみた。


「うわぁビックリしたぁ~……大山かよ」


 宇野は、オレに驚いていた。


「大山、お前も見たからには手伝え」


 そう言って渡辺は、オレの肩をポンっと叩いた。あ……最悪なことに巻き込まれた。逃げることはできない……。


「手伝えって言われても具体的には何を手伝うんだ?」


「今、オレらは、女子が風呂から出てくるのを待っているんだ」


 宮下は、そう言うがオレにはわけがわからなかった。


「待つ理由はなんだ?」 


「そりゃお風呂あがりの女子を見るためだよ。特に北原とかな」


 噂だが、北原は、クラスでモテてるらしい。


「そうか……じゃあ、オレが手伝うことはないはずだろ?」


「いや、ある。大山には、周りを見ていてほしい。もし、この場を誰かに見られて作戦が失敗するということになるかもしれないからな」


 見張り役ということか。とてもめんどうだな。


「大山は、誰か来たらオレ達に教えるだけだ。

じゃ、よろしくな」


 宇野は、オレがまだやるとは、言っていないのに話を進めていた。


 やるしかないのか……。もし、ここに人が来たらオレだけこっそりと逃げることにしよう。



 ───女子更衣室。



「豊田さん、どうかしました?」


 藤村は、怖い顔で何かを気にしている豊田に尋ねる。


「なんか誰かの視線を感じるのよ」


「視線ですか? 私は、何も感じませんけど」


「気のせいか……藤村さん、入浴の時間も決まっているし早く入りましょ」


「えぇ、そうですね」



─────────── 



「ん~広かったね。なかなか温泉なんて入ったりしないから贅沢って感じ」


 北原は、栗山と薄いの2人に言う。


「だね。ねぇ、この後、3人でトランプしようよ」


「いいね」


 3人は、そう言って更衣室を出ようとすると豊田が北原達の前に立った。


「えっと豊田さん? そこ通りたいんだけど」


 北原は、困った顔をした。


「少しの間待ってて」


 豊田は、北原達にそう言って更衣室を出た。


「ん? なんだろう?」


「待ってもらってすみません。豊田さんは、私達のために怒りに行ったんです」


 豊田と同じクラスである藤村は、北原達にそう言った。


「怒りに? わかんないけど、待つね」


 北原は、笑顔で言った。



 ────女子更衣室近くの階段。



 ここにいてから10分たったな。そろそろここから離れよう。オレは、3人が見ていない隙に逃げ出した。その直後、階段に一人の声が響き渡った。


「何してんの?」


「ひぃ、えっーとこれは……」


 宇野は、仁王立ちでいる豊田に怯えた。


「名前、クラスを順番に教えなさい。このことを先生に伝えておくから」


 豊田がそう言うと3人は、1人ずつ名前とクラスを言わざるをえなかった。



 ─────女子更衣室。


「お帰りなさい、豊田さん」


 藤村は、帰ってきた豊田に言う。


「ほんとっ男子って小学生ね」


「豊田さん、何があったかわからないけどありがとう」


 北原は、豊田にお礼を言う。


「別に……」


 こうしてこの裏で行われた作戦は、失敗に終わった。

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