第16話 競技決めは、始まる前から決まっている

        『体育祭』

〈日時〉6月28日

【注意事項】

①チーム得点について

個人で六人が獲得した合計得点がチーム得点へとなる。

どの競技も得点は、

1位が50点、2位が30点、3位が20点、

4位が10点、5位が5点、6位が0点となる。

②優勝クラスについて

優勝したクラスに所属している場合、チームに30点が入る。

だか、優勝クラス以外には得点はない。

優勝クラスに所属している人がチームに1人いた場合は30点、2人の場合は60点と人数によって得点は変わる。


※今回は、7月12日に期末考査があるためチーム順位の発表は、期末考査終了後に行われる。




「クラス優勝……」


 オレは、今日の放課後に配られた体育祭のプリントを寮に帰ってきて見ていた。


 クラスで優勝するかしないかで得点は大きく変わる。もし、オレら3組のクラスが優勝するとしたら4人いるので30点かける4で120点を獲得することができる。


 椎名達の5組が優勝したら30点かける2で60点を獲得。だが、3組と5組以外のクラスが優勝したら

1点も獲得できない。



─────────



 翌日、体育祭の競技決めが各クラスで行われていた。そんな中、1年2組では、話し合いが進んでいなかった。


「おい、平坂。お前、雨野の意見のどこがいけないんだよ」


 萩原は、目の前にいる平坂に言う。


「1位のチームだからそんなことが言えるんだ」


「落ち着いて、平坂君。それに萩原君も」


 濱野は、平坂の肩をとんとんと叩く。


「濱野は、いいのか?雨野が提案した物で……」


 平坂は、隣にいる濱野に尋ねる。


「う~ん。得意な競技に出ることはいいことだと思うよ。けど、それじゃあ運動が苦手な子が勝てなさそうなあまり物の競技になってしまう……だから、私も平坂君と同じで雨野さんの意見には反対かな」


 濱野は、そう言っても教室のはしにいる雨野を見た。


「濱野さん、それじゃああなたはどのような方法で競技決めをしたいの?」


 雨野の隣にいる笠音は、教壇の近くにいる濱野に聞く。


「私は、まず運動が苦手な人が競技を選んでその後に運動が得意な人が選ぶべきだと思う」


「そう。けど、濱野さんの方法じゃ敵対チームにチーム得点を譲ってあげてることになるのよ」


 笠音は、濱野にそう言った。


「それは……そうだけど……。でも、クラス優勝のことを考えるとやっぱり敵対してるチームにも勝たせてあげないと。雨野さんもクラスで優勝したいよね?」


 濱野は、黙って聞いている雨野に尋ねた。


「私は、クラス優勝には興味ありません。個人で優勝することしか考えていませんので」


 雨野がそう言うと濱野と平坂は、驚いていた。


「ってことは、雨野さんはクラス優勝で獲得する30点は、いらないってこと?」


 濱野は、疑問に思い尋ねた。


「そういうことになりますね」

 

 彼女はそう言ってくすっと笑った。


 このとき、雨野と笠音、萩原以外のクラスメイトは、雨野が何を考えているのか誰一人わからなかった。


「ここは、雨野と濱野の意見を多数決で決めるのはどうだ」


 萩原は、クラスメイト全員に提案した。


「いいよ、みんなの意見も聞きたいしね」


 濱野は、萩原の提案に賛成した。


「私もそれで構いません」


「じゃあ、多数決をとる。濱野の意見に賛成の人……」


 萩原は、手を挙げた人数を数えた。人数は、濱野と平坂含め12人だけだった。


「じゃあ、雨野の意見に賛成の人……」


 人数は、さっき挙げた人以外の人数。28人だった。


「みんな………それでいいの?」


 濱野は、クラスの子に尋ねた。


 すると、雨野の意見に賛成した者は、皆、何も言わなかった。つまり雨野の意見に対して文句はないということだ。


「では、私の意見で決まりですね」


「雨野さん、もしかして事前にみんなに……」


 濱野は、ハッとして雨野を見た。


「濱野、オレ達の意見なんか最初から通るはずがなかったんだ。やられた……」


 平坂は、濱野の隣で呟いた。


「そうだね。けど、決まったことだからこのクラスは、雨野さんがいうクラス優勝を目指すための競技決めじゃなく自分のチームのために競技決めを行おう」


 濱野は、雨野の意見をのみこんだ。



────────────



「なぁ、濱野」


 競技決めが終わったあとの放課後、濱野と平坂は2人でカフェにいた。


「どうしたの? 平坂君」


「雨野は、どうしてクラス優勝を目指さないんだ?」


「あの場ではそう言ってたけど、たぶん雨野さんは、できたらクラス優勝したいなぁとしか思ってないと思う」


「クラス優勝を目標にしちゃったら皆な競技で1位を取って、他のチームに獲得点数を増やされるしね。はぁ~頭使いすぎで甘いものほしくなってきたよ。店員さーん、イチゴパフェ1つ!」


 濱野は、手を挙げて店員に頼んだ。


「じゃあ、雨野の意見に賛成した奴は、みんなそれをわかってたのか?」


 平坂は、濱野に聞く。


「いーや、それは違うかな。たぶん雨野さんは、事前に数人の生徒に交渉してたんだよ」


「交渉?」


「うん。自分の意見に賛成してくれたらチーム得点を渡すって雨野さんは言ったんじゃないかな。私もやったことあるけど……」


「なるほどな。賛成するということと自分のチーム得点を交換したってことか」


 平坂は、濱野の言葉に納得するのだった。



──────────



「今のところ何事もうまくいってる……そう思っていいのよね?」


 噴水前にいる笠音は、電話で雨野に尋ねた。


『はい、そう思ってもらって構いませんよ』


「そういえば、千佳に一つ確認したいことがあるのだけど……」


『何でしょうか?』


「クラス優勝を目指さない理由は、他のチームに得点を取られたくない……本当に理由はそれだけ?」


 笠音がそう聞くと雨野は、小さく笑う。


『それだけですよ。私、チームメイトには本当のことしか話しませんし、私が思うことを全て話します』


「そこまで言われたら信じるわ。これ以上追及しないでおく」


『ありがとうございます』


「じゃあ、私は松原からと待ち合わせがあるから」


『わかりました。こちらも図書館に寄った後、そちらへ向かいます』


 雨野がそう言った後、笠音は、電話を切った。




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