第12話 約束

「いや~まさか順位が上がるとはな~。これも椎名のおかげだな」


 江川は、そう言って目の前にあるクッキーを手に取る。北原の部屋に集まったオレ達は、中間考査のお疲れ様会をしていた。


「お役にたてて嬉しいわ」


 椎名がそう言った後、隣にいる北原が思い出したかのようにハッとする。


「そうだ、もうすぐ体育祭だよね? みんなは、何に出るか決めた?」


「体育祭もチームに得点が入るんですか?」


「入るよ。クラス対抗だけど、競技一つ一つに得点があってそれがチームの得点になる」


 椎名は、山野の質問に答える。


「へぇ~そうなんですね」


「私達のクラスには、スポーツ得意な江川君がいるからけっこう目をつけられてるんだよ」


 北原がそう言うと江川は、まじかと言い、驚いていた。


「まぁ、クラスで優勝なんてどうでもいいわ。個人で優勝さえしていれば」


 そうだな……近藤の言う通りだ。クラス優勝なんてどうでもいい。チームには、関係ないからな。


 それにしても体育祭というものがオレにはさっぱりわからない。体育的な学校の行事であることは知っているが具体的なことはなにも知らない。


「まぁ、みんなクラスは違うけど、お互い頑張ろうね」


「そうですね、頑張りましょう!」



───────────



「さっきまでたくさんの人がいたのに急に静かになるとなんか寂しいな……」


 最後にオレが北原の部屋を出ようとしたとき、北原は小さく呟いた。


「確かにさっきまで騒がしかったのに急に静かになると寂しくなるな」


 オレは、そう言い北原の部屋を出ようとした時、後ろから北原に服を引っ張られた。


「北原?」


「少しだけ一緒にいてほしいな。ダメ、かな?」


「少しだけなら……」


「ありがとう」


 オレは、北原の部屋へと戻った。


「お茶用意するね」


 少し嬉しそうな北原は、キッチンへ向かい、オレは床に座る。

 すると、キッチンからこちらへ来た北原はオレに話しかけてきた。


「大山君、聞きたいことがあるんだけど」


 コップを机に出した北原は、オレに聞いてきた。


「なんだ?」


「成績上位者にいる人達のことどう思う?例えば彩沙ちゃんとかさ」


「そうだな。少し変えられれば成長する奴だと思ってる。学年2位が成長するとなれば1位になるのも夢じゃない」


「そっか……」


 先ほどから思っていたが北原の様子がおかしい気がする。


「私ね、私より頭がいい人達って嫌い。私達を下に見てるっていうか、なんか一言一言に腹が立ってくる。だから、私は、成績上位者を消したい」


 北原の性格からして言わなさそうな発言にオレは、少し驚いた。


「それは、どういう意味だ?」


「退学させるってことだよ? あっ、消すからって犯罪には手を染めないよ?」


 北原は、クスクスと笑う。


「あ~でも、雨野さんは簡単に学校辞めてくれないよね? あの子、ただ者じゃない気がするし。ねぇ、大山君、雨野さんと仲いいなら私に協力してくれない? 一緒に成績上位者を消そうよ」


 笑顔で言う北原にオレは、恐怖しか感じなかった。

 この誘いをなぜオレにしたのだろうか。オレは、一度も北原の前で雨野と話したことないのになぜ仲がいいと言えるのだろうか。


「オレがお前に協力する理由が見つからない」


「大山君、1位になりたいんでしょ? それなら、雨野さんは邪魔じゃない?」


 確かにそうだな……。1位を目指すとなれば1位のチームの奴らは全員邪魔者だ。だが、オレは、北原に協力しない。


「断る。オレは、北原には協力できない、オレは、自分のやり方で雨野を1位の座から引きずり下ろす。話しは終わりか?」


「うん。けど、最後に約束して……今、話したことは、私達だけの秘密。もし、誰かに話したらその時は、私、大山君まで退学させないといけないから」


「わかった。約束する」


「うん、じゃあ、また明日」


 玄関前で北原と別れオレは、自分の部屋へと戻る。


「あぁ、また明日」


 オレは、そう言って北原の部屋を出た。


 北原が近藤のいるチームに入った理由がやっとわかった。まぁ、北原の目的は、ほおっておいても問題なさそうだ。けど、北原が成績上位者を嫌うなら、オレが上位にいくと目をつけられるな。気を付けることにしよう。



──────────



 翌日、昨日の出来事を思い出すとオレは、北原に会うのが怖くなってしまった。


 昨日のことでオレは、一つ疑問があった。それは、なぜオレに協力を求めたのか。オレ以外にも椎名や山野、江川でもよかったはずなのに。


「まぁ、考えても意味ないか」


 オレは、制限に着替えて寮を出た。寮を出ると、オレを見て手招きしてくる生徒がいた。オレは、仕方なくその生徒の元へと駆け寄った。


「おはよ、大山君」


「あぁ、おはよう濱野」


 朝だというのに濱野は、元気に挨拶をしてくる。


「誰か学校まで一緒に行ける人探してたの。一緒に登校してもいい?」


「あぁ、別に構わない」


「やった。そう言えばさ、大山君のチームの順位上がってたよね?」


「あぁ、オレのチームに優秀な奴がいたからな」


「へぇ~そうなんだ。優秀な人なら私のチームにもいるよ。5組のうららちゃんって子なんだけどね、すごいんだよっ」


 何がすごいかわからん。そういえば、濱野のチームメイトには誰一人会ったことないな。


「おはよう濱野」


 後ろから初めて会う男子生徒が濱野に声をかける。


「平坂君、おはよ。あっ、大山君紹介するね。こちら、チームメイトの平坂匠ひらさかたくみ君だよ」


 濱野は、その男子生徒を紹介してくれた。


「よろしく。大山のことは、濱野から聞いてる」


「あぁ、よろしく」


 オレがそう言った隣で濱野は、嬉しそうにニコニコしていた。濱野は、オレのことをどう平坂に言ったのか物凄い気になるな……。





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