第10話 図書館にて
中間考査が終わり、部活動が再開し始めた日の放課後、オレは、サッカー部が活動している場所の近くを通った。
「部活か……」
オレは、部活には入らなかった。やってみたいという気持ちはあったがそんなことをしている場合ではないので諦めた。歩いていると、目の前にサッカーボールが転がってきた。
「おーい、そこの君、そのボールこっちに投げてくれないか?」
遠くからサッカー部員であろう人がオレに向かって叫んできた。オレは、言われた通りサッカーボールを蹴って返した。
「ありがとー」
ボールを受け取った人は、オレにそう言って練習を再開すると思いきやオレの方へ走ってきた。
「ボールありがとな」
「えっ、いや、今さっき、大声で言ってなかったか? なんでわざわざ言いに来たんだ?」
「いや、礼はやっぱ直接言うべきだと思ってさ」
「そうか……」
「あっ、自己紹介した方がいいよな。オレは、2組の
「オレは、3組の大山一樹だ」
「大山か。オレのチームに雨野っていう奴がお前のこと話してたから大山がどんな奴か気になっていたんだ」
となると萩原は、雨野のチームメイトか。
「萩原は、雨野と同じチームか?」
「おう、そうだよ。もしかして、大山は雨野と知り合いか?」
「まぁ、知り合いかな」
「そうか。まっ、クラスは違うが仲良くしようぜ」
「あぁ、そうだな」
「萩原、帰ってこい」
遠くから聞こえてきた声に萩原は、手を振ってわかったと一言。
「じゃあ、またな、大山」
そう言って萩原は、サッカーコートへと帰っていった。さて、図書館でも行くとするか。
─────────
図書館へ訪れたオレは、少し図書館の中を歩きどんな本があるか見ていた。図書館にはたくさんの本が置いてあり、座るスペースも存在していた。全部読もうとするとどれくらいかかるのだろうか。
本を読むだけではなく勉強をする生徒もいた。どうやらこの場所はテスト前になると勉強する生徒が増えるらしい。あとで近藤にも教えるか。いや、近藤ならもう知ってるかもしれないな。本を読んでいる人や勉強している人を見ていると雨野を見かけたので話しかけることにした。
「雨野、読書中か?」
「あっ、大山君。読書中ではありませんよ。少し調べものをしていたんです」
雨野の目の前には、薄い冊子が置いていた。
「何を調べてるんだ?」
「この学校は、lT企業と繋がっているのでその企業を調べていたんです。大山君、あなたは入学式で理事長がおっしゃっていた言葉をどう思いますか?」
唐突な質問だな。あの面白さもない理事長の言葉をどう思ったのかと聞かれても感想がない。
「面白くない話だった」
オレが正直に答えると彼女はクスッと笑った。
「面白くない話ですか。大山君らしい答えですね。やはり、この学校のことをよく知っているからこその答えですよね?」
雨野は、他の人に聞こえないよう小さな声で言った。
「雨野が理事長と協力関係かどうか知らないが、もし、そうならオレは、雨野をこの学校から追い出せるようなデマの情報を作って二度と学校に来れないようにするぞ」
「脅しですか。忠告感謝します。ですが、大丈夫ですよ、大山君。私は、理事長とは知り合いですが協力関係を結んではいません。むしろ、私はあなたのすることを応援しています」
応援の意味がわからないがここで雨野に何か尋ねても彼女は答えてはくれないだろう。これ以上邪魔しちゃ悪いと思い立ち去ろうとした瞬間、オレと雨野のところに一人の女子生徒が来た。
「そこのお二人さん、図書館では静かにね」
「一華さん、すみません。少し会話がはずんでしまって」
どうやら、雨野は彼女のことを知っているようだ。
「わかったならよろしい。ごめんね、2人の大切な時間を壊すような感じになって……」
「いいんですよ、一華さん。大山君とはちょっとした雑談をしていただけですから」
雨野は、彼女に向かってそう言い微笑んだ。
「大山ってもしかして、大山一樹君?」
初対面のはずなのに彼女はなぜかオレの名前を知っていた。
「あぁ、オレが大山一樹だ」
「君が大山君ね。初めまして、私、
濱野は、テンションがあがっているのか話すのをやめない。
「あの、濱野さん。話すなら図書館を出てからにしませんか?」
「あっ、注意した私が注意されちゃった。そうだね、外行こうか。雨野さん、大山君」
──────────
図書館を出たオレ達は、近くにあったカフェに入った。こういうとこってなんか女子が来るところって感じで慣れないな……。
「私と雨野さんは、同じクラスなの。雨野さんと大山君は、どういう関係?」
なるほど……だから、雨野と濱野は顔見知りなのか。オレはてっきり濱野の質問に雨野が答えるかと思いていたが雨野は黙ってオレのことを見ていた。オレが答えろということだろうか。
「オレと雨野は、友人だ」
間違ってないはず……。オレは、おそるおそる雨野を見た。すると、雨野は嬉しそうに微笑んでいた。よかった、間違っていないようだ。
「友人かぁ~私も二人と仲良くしたいな」
「オレなんかより女子と仲良くしたほうがいいんじゃないか?」
「仲良くなるのに女子も男子も関係ないよ。私は、こうやって出会った人全員と仲良くしてここを卒業したいから」
濱野は、そう言いながら悲しい顔をする。おそらく濱野の過去に何かあったのだろう。だが、過去に触れるわけにはいかないので何も聞かないことにした。
「ごめん。私、変なこと言ってるよね?」
「いや、いいと思うぞ。チームメイト以外が敵なこの学校で輪を広げることも」
オレがそう言うと濱野は、嬉しそうに笑った。
「大山君」
濱野がオレの名前を呼んだそのとき、イスに置いていた濱野のカバンの中身がすべて地面に落ちた。
「あっ……」
濱野は、下にしゃがみこみ落ちたものを拾う。
「拾うの手伝う」
「ありがと、大山君」
オレは、散らばった紙を集めていく。ん? 何だこれ……。オレは、束になっているプリントを見た。これは、問題用紙だよな? オレは、それを見ていると手元からすっと離れた。
「ありがとう、拾ってくれて」
濱野がオレの手からその束になったものを取った。
「濱野さっきのは───」
オレは、さっきの紙について聞こうとしたが、濱野は、バッとイスから立ち上がりカバンを持った。
「私、そろそろ帰らないといけないからまたね」
明らかに何かを隠すように濱野は、立ち去ろうとする。
「じゃあね、雨野さんと大山君」
彼女は、焦るようにこの場を去っていった。
「大山君、どうかされましたか? さきほど、何か言いかけていましたが……」
雨野は、オレの様子が気になり尋ねてきた。
「いや、なんでもない」
「そうですか。そろそろ私たちも帰りますか?」
「そうだな……」
オレと雨野は、この場で別れた。しかしあの問題用紙はなんだったんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます