第7話 勉強会

 中間考査9日前、オレらのチームは、放課後は図書館に集まり、勉強会を開いていた。近藤は、江川に勉強を教え、椎名は山野に。そして、オレと北原は、一緒に勉強をしていた。


「大山君、テストの課題は終わった?」


 北原は、オレのノートを覗き込んできた。


「昨日、終わらせた。北原は?」


「まだだよ。……ん? すごいね、大山君。ここの問題、私、解けなかったのに」


 ノートを見て気づいた北原は、驚いていた。


「ここの単元が得意なだけだ。よかったらこの問題教えようか?」


「いいの?」


「まぁ、復習と思えば……」


「ありがとう」


 北原は、ノートを用意し、オレのところへ寄ってきた。


 近くないか? いや、教えるなら普通の距離か……。


「まず、ここは公式を使って解く。それはわかるか?」


「うん。その次がわからなくて……」


「次は、これを代入して解くだけだ」


「なるほど~。わかりやすい解説ありがとう」


 北原は、そう言ってオレの手を握った。


「……なぁ、北原」


「ん? 何かな?」


「いや、やっぱり何でもない。お互いテスト頑張ろうな」


「うん、頑張ろうね」


 北原は、オレから手を離し、ニコッと笑い勉強を再開した。

 

 さて、オレも勉強するフリでもするか。勉強なんてごめんだ。


「大山君、どうしたらいいの?」


 目の前に座る近藤がオレに助けを求めてきた。


「近藤、どうかしたのか?」


 近藤の表情は、とても悪く、ほとんど怒っている表情に近かった。


「江川君に勉強を教えているんだけど、江川君の集中力がなさすぎて困ってるわ」


「なるほどな。一回、休憩させたらどうだ?」


「させたわよ。けど……」


 近藤は、隣にいる江川をチラッと見た。


「寝てる……江川は勉強が嫌いなのか?」


「そうかもね。けど、このまま勉強しないのも……」


「近藤、ここはオレに任せろ」


 オレは、近藤にそう伝え、自分の荷物をまとめ、イスから立ち上がり図書館を出た。


───────────


 次の日の放課後、今日は勉強会はなくすぐに寮へ帰ることにした。校舎と寮は、隣同士で近いためさほど距離ない。寮の近くには噴水があり、水が………ん? 噴水前に人がいる………。


 噴水前で男女2人が静かになにやら話しておりオレがいるところまで会話が聞こえてきた。


「康二君、あとのメンバーの勉強は進んでいますか?」


「1人を除いて、あの3人は、順調だそうです」


「そうですか。これなら1位になれるかもしれませんね」


 女子生徒の方は、そう言ってクスッと笑った。


「1位である雨野様がいれば、大丈夫です」


「康二君、前も言いましたが様ではなく、さん付けでお願いします。私とあなたは同級生ですから」


「ですが………雨野様? どうかしましたか?」


「誰かいるようです……。盗み聞きですか?」


 彼女は、オレのことに気付き近づいてきた。


「盗み聞きじゃないって言っても信じないよな?」


 オレは、彼女に聞く。


「そうですね。無理な言い訳にしか聞こえません。ですが。人に聞かれてはならないことを話していたわけではありませんし、盗み聞きしていたことは許しましょう」


「雨野様、そんなこと言ってまた盗み聞きされるかもしれませんよ」


「大丈夫ですよ。あっ、自己紹介してませんでした…私は、1年2組の雨野千佳あまのちかと申します。ネクタイの色からして同級生のようですし呼び捨てで結構です」


 同級生……か。それにしてもオーラが違うな。


「オレは、1年3組の大山一樹だ」


「大山君……ですか」


 彼女は、オレの名前を聞き、少し驚いていた。


「雨野様、どうかしましたか?」


 隣にいる男の人は、雨野に尋ねた。


「い、いえ……少し驚いただけです。大山君、こちらは私と同じチームの武内康二たけうちこうじ君です。クラスは違いますが」


 雨野は、隣にいる武内をオレに紹介した。


「よろしくな、大山」


 武内は、オレの目の前に手を差し出した。


「あぁ、よろしく……」


 オレは、その手を握り返した。


「ところで大山君は、どこかのチームに入りましたか?」


 雨野は、オレに聞いてきた。


「入ったというか、同じクラスの人に誘われたんだ」


「そうなんですね、1年3組なら近藤彩沙さんがいましたよね? 2位の方の……」


「あぁ、オレと一緒のチームだ」


「なら、私達とあなた達のチームは、ライバルですね。1位がいるチームと2位がいるチーム……ですが、私は同級生と争うのではなく仲良くしたいです。大山君、また後日、お話しませんか?」


「なんでオレと?」


「2人だけで話したいことがあります。明日の放課後はどうでしょうか……」


 話したいことって何だろうか。


「わかった、明日の放課後、ここで待ち合わせで……」


「わかりました、待っていますね」


「雨野様、そろそろ時間です」


 武内は、雨野に伝えると雨野は、小さく頷いた。


「では、また明日」


 雨野はそう言って武内と一緒に寮へと入った。


 オレが名前を言った時、雨野は、オレに何かを言おうとしていた。多分、名前を聞いて、理事長の名字が同じであることに気づいたはず。だが、彼女は、近藤や椎名のように尋ねなかった。


 雨野千佳……念のため警戒しておこう。


───────────


「雨野様、さきほど何に驚かれていたんですか?」


 寮のロビーに座る雨野に武内は、聞いた。


「彼は、この学校の理事長と名字が同じでした」


「もしかして大山は、理事長の息子だと言いたいのですか?」


 武内は、半分信じていない様子で言う。


「えぇ、そうです。入学試験のテスト結果を見て、彼の名前が気になったので理事長に直接聞きました」


「そうですか……ということは、もしかしたら理事長は、息子だからと言って大山を1位にするために何かズルでも……」


「そのような心配はいりません」


 なぜそんなにもハッキリ言えるのかが武内にはわからなかった。


「武内、邪魔」


「おいっ、何するんだよ、笠音」


 武内は、イスに座った彼女、笠音穂乃果かさねほのかに対して怒る。


「何? 文句ある?」


 笠音と武内が言い争っている中、雨野は、一人下を向いて考え事をしていた。


「これは再会と思っていいのでしょうか……大山一樹君」



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