第6話 どういう心境の変化よ……

「6人揃っているようだしこの6人をチームとして認めるよ」


 理事長は、チーム申請書をオレに手渡した。


「ありがとうございます」


「ところで大山一樹、君はこの学校へ何をしに来たんだ? 1位になるためか?」


 理事長は、いつもの優しい声から一変し、口調をかえた。


「答える必要がありますか? ここは1位を目指す人が来る学校。他に理由なんてあるんですか?」


「そうだな。例えば、この学校を潰しに来たとかな……」


「冗談が怖いですよ、理事長。オレは、そんなことしません」


「そうか、ならいい。今年の新入生は、違う意味で賢い生徒が多い。気を付けろよ」


「何のことですか?」


 オレは、そう言って理事長室を出た。


───────────


「一樹君、どうでしたか?」


 理事長室を出ると、山野が駆け寄ってきた。


「承認された。今から近藤に会いに行くけど、一緒に行くか?」


「はい、行きましょう」


 オレと山野は、近藤がいる食堂に向かうことにした。


「行ってきたぞ」


「大山君、ありがとう。その様子だと承認されたみたいね。今日からさっそく勉強会を始めましょう。山野さん、あなたも勉強会に参加する?大山君は、参加しないみたいだけど……」


 近藤は、そう言ってオレを見る。


「もちろん参加します」


 山野がそう言うと、後ろから椎名が言った。


「私も参加するわ」


「椎名さん、一緒に頑張りましょう」


 山野は、椎名の手を握った。


「巴でいいよ。みゆ」


「では、巴さん……」


「可愛い」


 椎名は、そう言って山野をギュッと抱き締める。


「あの2人は、ほっといて……大山君、少し付き合ってくれる?」


「まぁ、少しなら……」


───────────


 学校の外にある噴水の前でオレと近藤は、立ち止まった。


「大山君、私はこのチームで中間考査、1位をとりたいと思ってる。あなたもそう思ってるわよね?」


「あぁ、思ってる。……どうしてそんなこと急に聞くんだ?」


「一応聞いてみただけよ。意味なんかないわ」


「そうか……なぁ、近藤、もし、この中間考査でチームの誰かがわざと低い点数をとったらどうする?」


 オレがそう言うと近藤は、困っていた。


「わざと?なんでそんなことする必要があるのよ」


「もし賢い人を潰す奴がいるとする、そいつは賢い人のいるチームに入り、平均点を下げそのチームの順位を落とし、1位を目指すやる気をなくさせる」


「成績上位者を消していくってこと?」


「まぁ、簡単にいえば……。勉強ができない奴はいくら頑張っても1位には勝てない。なら、上位者がいなくなれば、1位になれる確率は増える」


「まって、大山君。平均点を下げたあとはその人は、どうするの?」


 近藤は、疑問があり、オレに聞く。


「そりゃ、また成績上位者のいるチームに入り、同じことを起こす。つまり、それの繰り返しだ」


「……そんな人がいること、考えたこともなかったわ。さっきの話、本当じゃないわよね?私達のチームにそんなことする人なんて……」


「いないとは言いきれないだろ?」


「そうね……でも、なんであなたはそんなこと考えたの?」


 近藤は、オレに尋ねた。


「ふと思っただけだ。この学校は、そういう考えを持つ奴がいてもおかしくない」


「なるほどね……で、私にその話をした理由は?もし、私がそういう考えを持つ人だったらどうするのよ」


「オレは、近藤がそんなことをする人だと思っていない……だから、話した」


「私を信用してるってこと?」


「あぁ……そうだ」


「そう……けど、困ったわね。もし、私達のチームに点数を下げる人がいたら……」


「安心しろ。今回の中間考査では、このチームに点数を下げる奴はいない」


「どういうこと? その言い方だと、今回はいないけど今後は、ありえるってこと?」


「あぁ、そうだ。まぁ、予想だからあまり気にするな」


───────────


「これが江川君用のノート、そして……大山君の分も作ってしまった……」


 私、近藤彩沙は、テスト対策用のノートを手に取り見つめた。


「どうせ必要ないって言われるわよね……」


 ノートを鞄にいれようとしたとき、大山君からメールが来ていることに気付いた


「うわさをすれば……えっ?」


 近藤は、メールの内容を見て驚いた。メールの内容は、勉強会に参加したいというものだった。


「どういう心境の変化よ……」


 近藤は、少し嬉しそうにメールをもう一度見た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る