タイムリープ・ヤクザ ~不死身の龍はバースデーケーキを持ち帰るために何度も死に戻りするようです~

蒼魚二三 >゜ )彡))二ヨ

初犯 不死身の龍という男


 ―――俺の名はタツ。ヤクザだ。

 年齢は二十歳。身長百七十センチ体重六十八キロ。血液型A型。誕生日は十一月四日。

 好きな食べ物は生クリームたっぷりのショートケーキ。嫌いな食べ物は特になし。

 趣味はカチコミ。毎日血みどろの抗争に明け暮れてる。

 不死身の龍なんて通り名で呼ばれてるらしい。


 そんな俺が、カタギのケーキ屋に入ったのには理由があった。


「失礼します、予約していたタツと申します。用意できとりますか」

「はは、はい! こちらになりますー」


 店員が冷蔵庫から取り出したのは、イチゴとホイップクリームをふんだんに使ったバースデーケーキ。

 叔父貴の誕生日を祝うために用意したものだった。俺は財布を取り出し、一万円札を取り出す。


「これで足りるか?」

「はい! ありがとうございます!」


 俺はそのケーキを受け取る。

 そして、すぐにその場を去った。


「……ふう」


 なんとか買えた。

 まさか俺がカタギの店に出向くとは思わなかった。

 ……まあ、いい。とにかく早く帰ろう。


「お疲れ様っす、兄貴」

「おう」


 外に出ると部下が声をかけてきた。

 俺と同じく二十歳の若い男だが、人懐っこい性格が良くて、舎弟として可愛がっている。


「兄貴、今日は何してたんすか? 確かカタギの店に行ってたんですよね」

「ああ。叔父貴の誕生日祝いにケーキを買いに行ったんよ」

「え!? あの人が誕生日なんですか!? 知らなかったっす!」


 そう言うと、舎弟はすんませんと腰を落とし、頭を下げた。


「阿呆が。ここはカタギん店の前やぞ。もっと普通に謝らんかい」

「す、すんません! 気をつけるっす!」


 全く、まだまだヤクザとしての教育が足りんなあ、と反省するしかない。

 しかし、叔父貴の誕生日祝いか……


「今年は叔父貴の作るケーキが食えないのは寂しいっすね、兄貴」

「しょうがないやろ、叔父貴も年じゃ。療養してもらわなあかん」


 そうして俺と弟分は、軽くタバコを嗜みながら雑談をしていた。

 カタギの店が立ち並ぶ場所だから、と俺は油断していた。

 それがダメだった。突然――


「タツウウウ!」

「ああん?」


 左から男の怒声が聞こえ、タツは思わず振り返った。


「死に晒せえええ!」

「なっ、なんやワレ、――ぐ!?」

「あ、兄貴ぃぃいい!」


 男は鉄砲玉だった。

 そいつは一気に駆け寄り、脇に構えたドスで俺の腹を一差し。

 俺は口から鮮血を吐き出しながら、意識を失った――――


 ◇


「――お、お会計、ありがとうございましたー!」

「……おん?」


 だが、次にタツが気がついたときには、ケーキ屋の店内だった。

 店員は丁寧にケーキの包みを差し出している。

 俺は首を傾げる、かと言ってなにも分からない。

 さっきのは夢だった、そう思って、そのまま店の外に出た。


「お疲れ様っす、兄貴」

「お? おう」


 そうすると部下が声をかけてきた。

 こいつは俺の舎弟。説明はいらんだろう。


「あー、なんやお前、さっきも会ったか?」

「いや特に。店の前で待ってたっす」

「ほおん、そうか」

「で、兄貴、今日は何してたんすか? 確かカタギの店に行ってたんですよね」

「ああ。叔父貴の誕生日祝いにケーキを買いに行ったんよ」

「え!? あの人が誕生日なんですか!? 知らなかったっす!」


 そう言うと、若頭補佐はすんませんと腰を落とし、頭を下げた。


「……」


 思わず絶句する。デジャブ感が消えない。


「おかしい、この会話――」

「タツウウウ!」

「ああん!?」


 またしてもデジャブだ。

 アイツはドスで、このまま俺を――


「死に晒せえええ!」

「なっ、なんやワレ、――ぐ!?」

「あ、兄貴ぃぃいい!」


 俺はまたしても腹を刺され、あっという間に意識を失った。


 ◇



「――お、お会計、ありがとうございましたー!」

「……!?」


 また気がつくと、俺がケーキを購入した場面。

 おかしい。何かが。

 叔父貴の誕生を祝うため、ケーキ屋に立ち寄った俺は、そこで鉄砲玉に刺された。

 刺されて、死んだはずだ。


「まさか、死に戻り、か?」


 二度目の死で、タツはようやく理解した。

 これはおそらく、何らかの原因で同じ時間を繰り返している。

 死に戻りの能力に目覚めたのだ。


「…………」


 タツは無言のまま、叔父貴へのケーキを購入する。

 これで何度目になるだろうか。

 だけども俺は、組に戻らなければならない。

 しかし――


「お疲れ様っす、兄貴」

「おう……」

「兄貴、今日は何してたんすか? 確かカタギの店に行ってたんですよね」

「…………ああ」


 同じだ。先ほどと。

 つまりこのあとは――



「タツウウウ! 死に晒せやああああ!」

「てめぇ、どこの組の――ぐぅ!?」

「あ、兄貴ぃぃいい!」


 腹に突き刺さる鈍色のドス。

 タツの意識は静かに消えていった。


 ◇


「――ありがとうございましたー!」

「……またか」


 そして気がつけばケーキ屋。また同じ場面に戻っている。

 俺はケーキを受け取り、少し離れてから確信を得た。


「間違いあらへん、死に戻りしとる」


 原因は分からない。

 だが、現に俺は、死に戻りをしている。


「……」


 死に戻りのスキルは、死ぬ度にその時点から時間が巻き戻る能力だ。

 死に戻りの回数に制限はない、というのが流行り。


「ふむ、なるほどのう」


 情報整理を終えた俺は、まずどうすれば死亡を回避出来るか考えた。

 店の外に出れば舎弟と出会い、話している隙を狙ってドスを構えた鉄砲玉が刺してくる。

 そしてタツには使命があった。


「俺は叔父貴の誕生日を祝わなきゃならん、何とか死亡を回避して組に戻らんと……」


 タツの目的は叔父貴の誕生祝い。そのために組に戻ることだ。

 何としても死ぬわけにいかない。


「せめて刺されないようにするには、刺されないようにするしかあらへん」


 タツが死ねば時間はリセットされてしまう。

 だから死なない方法を考えるしかない。


「刺されなければええんやろ。刺されなけりゃ、何の問題もない」


 そうしてタツは対策を考え始める。

 タツは死に戻りする度に考えるのだが、毎回同じ結論に至る。

 刺されて死んだ俺が悪かった、と。


「俺は不死身の龍。鉄砲玉ごときににイモ引いてられんのじゃ。先に殺すまでよ」


 タツは懐に隠し持っていたドスを確認すると、覚悟を決めて店の外に出た。


「死ねぇぇい! タツウウゥ!」

「死なんわボケカスぅッ!!」


 タツは突進してきた鉄砲玉に対して横薙ぎにドスを振るった。

 すると相手の腕が切断され、鮮血が飛び散る。


「ひぃぃいいっ!?」

「なんや、大したことあらへんやんけ」


 タツは鉄砲玉の返り血を浴びながらニヤリと笑う。

 これで死に戻りすることはなくなった。

 安心して組に帰るだけだ。


「おい、行くぞ」

「あ、はい、兄貴!」


 タツは部下を引き連れて、叔父貴の待つ事務所へと急いだ。

 ケーキ屋のあった商店街を抜け出し、組のある住宅街までたどり着く。

 すると舎弟が話しだした。


「あ、そうだ。兄貴、知ってるっすか?」

「なんや?」

「ここ、男好きの変質者が出るらしいんすよ」

「ほー。そりゃキモいなぁ」

「でも、滅多に会えないらしいんで、大丈夫だと思うんですけどね」

「そらそうやろ」

「ですよね。でも、一応、気をつけてください」

「分かった分かった」


 また変なことをする輩が居るもんだ。

 そうそう出会うことは――


「あ、どうもお兄さん方」

「ああん?」


 いきなり目の前に、スーツ姿の汗ばんだおっさんが立っていた。


「なんやお前――」

「貴方、カッコいいお顔ですね」

「えっ、な」


 おっさんは見た目に反して素早く、腕力が強かった。

 俺は一瞬で地面に組み伏せられ、


「いただきます」

「や、やめろ!」


 ビリビリ、バリバリン。

 一式で数百万もするスーツを剥ぎ取られ、全裸にさせられてしまった。

 変質者は俺のスーツの匂いをかぎながら走り去っていく。


「クソが! なんじゃあのクソ変質者」

「タツウウウウ! 死に晒せええええ!」

「また鉄砲玉やてぇ!? ――うぐあっ」

「あ、兄貴ぃぃいい!」


 腹に突き刺さる鈍色のドス。

 タツの意識はまた静かに消滅した――


 ◇


「ここは――」


 次は住宅街に入った場面で目を覚ましたタツ。

 静かに言葉を漏らす。


「住宅街か……」

「あ、そうだ。兄貴、知ってるっすか?」

「あ、ああ……変質者が出るんよな」

「おおー知ってたんすか! さすが兄貴!」


 舎弟の隣で俺は、額に手を当ててしまう。

 顔色も悪かった。


「クソが、まだ終わってへん、ってことか」


 鉄砲玉の襲撃は一回で終わらないようだ。

 次は住宅街で出会う変質者と、その後の鉄砲玉への対策を考えないといけない。


「どないしようかな……」


 いろいろと考えたが、やはりこう結論が出た。


「ま、あんな見境のない変質者は死んでもええやろ」


 タツはゴリゴリの武闘派であり、何より叔父貴のためにバースデーケーキを届ければならなかった。

 ヤクザにとっての約束事や祝い事は、命や金より重い。

 叔父貴への仁義を通すために、タツは腰に差したドスを確認した。


「ドスはある。これで変質者と、その後の鉄砲玉を殺すしかあらへんな」


 タツはすでに両方殺すと決めていた。

 叔父貴は気が短い。あまり待たせるわけにはいかない。

 急いで帰らなければならないのだ。


「あ、どうもお兄さん方」

「やんのかごらあああ!」

「おお、怖い怖い」


 変質者は抜き身になったドスにおびえて逃げていった。


「臆病もんが」

「兄貴の敵いいいい!」

「知るかボケええええ!」

「ぎゃああっ」


 返すドスで鉄砲玉を袈裟に斬り伏せ、タツは一息ついた。


「ふぅ」


 今度こそ終わっただろう。

 あとは曲がり角を左に曲がれば叔父貴の組だ。


「あ、兄貴、大丈夫ですか!?」

「心配すんな。叔父貴にケーキを届けるぞ」

「はい!」


 タツは舎弟と一緒に組に入り、体を清めたあと、叔父貴の部屋に出向いてケーキを渡した。

 長々とした祝辞を述べ、ようやく終わった、と一安心した時。

 叔父貴はこう漏らした。


「悪いタツ、実は俺の誕生日、明日なんだわ。明日も頼む」

「ええ、俺に任せて下さい」

「あと、関西の連中がお前のタマを狙ってるらしい。気いつけろよ」

「……っす」


 ……なんということだ。

 また、今日のような修羅場をくぐり抜けなければならないのか。

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