第6話


 本日の我が職場の空気はどうにも重たかった。というより、張り詰めていた。


「それでは、本日の議題に入ります」


 俺がいつも座っている作業用のイスにメイド服の柚葉が座っている。

 スカートの下にスパッツを穿いてはいけないというルールを律儀に守っているからか、足をしっかりと閉じて見えることを防いでいる。


 見えなくてもいいんだよ。

 見えるかもしれないと思えるだけで。


 見えないように意識してるところがもう萌える。


「私、次の現場に行かなきゃなんだけど」


 ちょうど俺の完成原稿を取りに来た香椎を捕まえ、ソファに座らせた後、俺はその向かいのソファに座らされた。


 俺と香椎は向き合っている状態だ。


「先日、先生からスカートの下にスパッツは穿いてはいけないと言われました」


「そんなこと言ったの?」


「まあ、言ったな」


 聞かれたので素直に答える。


「そして、あろうことかわたしのスカートの中を覗いてきました」


「異議あり! 俺がスカートを覗いたのではなく、柚葉がスカートの中を見せてきたのです!」


 柚葉の言葉を訂正する。


「柚葉、あんた何してんのよ」


「違うの、お姉ちゃん! 先生がスカートめくれって言うから!」


「それで自分でめくったんだから、それはもう自己責任だろ」


 俺が言うと、柚葉はうううと唸る。

 しかしここで落ち込んでいてはいけないとでも思ったのか、顔を上げて再び発言を始める。


「それからわたしはスカートの下にスパッツを穿けないでいます。パンツが見えてるんじゃないかと不安になってどきどきします」


「お前の妹、変態なんだよ」


「そうね。私も今確信したわ」


「そういう意味じゃないの! どきどきするっていうのは興奮してるってことじゃなくて!」


 言いたいことはおおよそ理解している。それは香椎も同じだろう。その上でこうしてからかっている。


 からかい甲斐のある子だよ。


「可愛い妹がいやらしい目で見られてるんだよ!? お姉ちゃんとして、そこのところどう思うの?」


 柚葉の必死な訴えに香椎は唸りながらこちらを見る。


「言っとくけど、俺は指一本触れてねえぞ。そもそもいやらしい目で見てねえし」


「女の子のパンツ見たがってるじゃないですか」


「あのなあ、女の子のパンツを見る理由がエロいことだけだと思うなよ? フェティシズムってのはそんな浅いもんじゃないんだよ」


「じゃあ何でパンツ見るんですか?」


「そもそも見てないけどな。強いて理由をつけるならば目の保養とでも言おうか」


「はあ」


「お前、目の前にめちゃくちゃ可愛い子猫がいたとして、そいつが箱の中に入っていて、もっとしっかり見たいと思ったら取り出すだろ?」


「そりゃ、まあ」


「でもエロい理由なんかなく、可愛い猫をもっとしっかり見たいってだけじゃん。それと一緒だよ」


「ん?」


「話は終わったかしら。そういうことなら私は帰るわね。これでも敏腕編集者なので」


「んん!?」


「嘘つけ。また喫茶店でサボりだろ」


「んんん!!?!?」


「そんなことはありません。それでは先生、原稿しっかりお願いしますね」


「んんんん!!?!?!?」


「じゃあねユズ。お仕事頑張って」


 そう言って、香椎は部屋を出ていった。

 残された柚葉は暫くの間、呆然としていた。

 そこを占拠されると俺は仕事ができないんですけど。


「……おい、柚葉」


 イスに座ってポカンとしている柚葉の名前を呼ぶと、香椎の出ていった扉を見ながら返事だけをしてくる。


「はい?」


「パンツ見えてるぞ」


 油断していたのか、さっきまでしっかり閉じられていた足が開いていた。するとその中のパンツが見えるのは必然だ。


「あ、や」


 ハッとして我に返った柚葉は慌ててスカートを押さえて隠す。もう遅いけどな。


「み、見ました?」


「うん。ばっちり。意外とエロいの穿いてんのな」


「ち、穿いてません!」


 普通に白いパンティでした。

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