第4話


 翌日。

 どれだけ頑張ったのか知らないがオーダーメイドの衣装が完成したという報告を受けて店に取りに行く。


 夕方になると学校終わりの柚葉がやって来る。

 俺は早速完成したメイド服を渡した。


 仕事場兼自宅である我が家は玄関の横に一部屋。そこが俺の寝室になる。

 廊下を進むとバスルームとトイレがあり、ドアを開けるとリビングという名の仕事場。横の部屋は本棚がギッシリ置かれた資料部屋。

 リビングには仕事用の机以外にテレビやソファなどがある。


 柚葉には脱衣所で着替えるよう指示してリビングに戻る。

 少しの間、廊下でごそごそ物音がしていたので迷っていたのだろう。しかし、決心したのかようやく脱衣所へと消えていく。


 ガチャリ、と仕事場のドアが開かれ、柚葉が中に入ってくる。


「あ、あの、これやっぱり恥ずかしい……」


「おお」


 半袖タイプのメイド服。黒の生地に白のエプロンという王道カラー、頭にはメイドカチューシャ。

 ミニスカートタイプにしたのだが、その丈が想像より短かったのかスカートを気にしてもじもじしている。

 確かに膝丈くらいかと思ってたけど、太もも辺りまで上がっている。

 おかげでスカートから伸びる太ももが堪能できる。これは静香さんナイスだ。


「あの、先生? じっと見てないで何か言ってくださいよ」


「んー、ガーターベルト買うか」


「そんなのどうでもいいんですけどっ!?」


 かくして。

 メイドさんのいる職場となったわけだが、想像していたよりずっといい。雰囲気がもう何か楽しい。

 ふと見るとミニスカートメイドがスカート丈を気にしながら仕事をしている。

 俺が見ていることに気づくと恨めしそうに睨んでくるのもプラスポイントだ。


 でもそれだけでなく、香椎の言った通り料理は上手で作られるもの全てが美味しい。

 掃除も隅々まで行うことで部屋の空気もキレイになる。

 結果、仕事に集中できる。


「あの」


「ん?」


 仕事中だからか、少し申し訳なさそうに声をかけてくる柚葉を振り返る。


「わたし、何すればいいですか?」


 料理と掃除が終わって手持ち無沙汰になったらしく、そんなことを聞いてきた。

 一応七時までという話なのでまだ一時間はある。


「んー、特にすることないし適当に漫画でも読んで時間潰してて」


「え、でも」


「待機もメイドさんの立派な仕事だぞ」


「はあ」


 と、少し納得していない様子だったが渋々返事をした柚葉は隣の部屋に向かう。


「一番右の本棚は一八禁のエロ本だから読むなよー」


「読みませんっ!」


 俺は仕事を再開する。

 程よく集中でき、いつもよりも順調に作業が進んでいる。このままいけば今週は余裕で終わりそうだな。


 ふと顔を上げると後ろに柚葉の姿はなかった。

 ソファで読めばいいものを、もしかして本棚の方でずっと読んでるのか?

 確かに続き取りに行くの面倒くさくてあっちで読むこともあるけど。

 イス置こうかな。


 なんてことを考えながら本棚の部屋を覗く。


「……何読んでんの?」


 柚葉は本棚の傍に座り込んで漫画を読んでいた。の本棚の、である。


「あ、わ、これは違くてっ」


「伏線の回収が早すぎるだろ」


 慌てて漫画を隠す柚葉は顔を真っ赤にしながら言い訳を考えているようだが、何を言ってももう遅い。

 やっぱり彼女はむっつりスケベだった。



 * * *



 インターホンが鳴った。

 柚葉がてててと歩いて玄関の方へと向かっていく。言わなくても気を回してくれるのもありがたい。


 でも多分この時間のインターホンは香椎なんだよなあ。


「おおおお姉ちゃん!?」


 玄関の方で驚いた声が聞こえた。

 動揺しているのが声だけで伝わってくる。


「先生、あんたうちの妹に随分可愛い制服着せてるじゃない」


「常識の範疇だと思うけど? 俺が本気で下心解放したらメイドビキニとか余裕で着せてるぞ」


 リビングまで入ってきた香椎が呆れたように言ってくるので俺は即答で言い返す。


「確かに」


 実の姉が秒で納得したものだから柚葉はショックを受ける。


「お姉ちゃん! もっと言ってよ!」


「でも、まあアリかナシか言えばアリでしょ。さすがは私の妹ね。男でなくてもこれは興奮するわ」


「お姉ちゃん!?」


「実妹なだけに危険なにおいがすんぞ」


「冗談よ。そんなことはさておき、原稿の調子はどうかしら?」


「悪くない」


 俺が言うと、香椎はデスクの上を覗き込んでくる。ふむふむと納得するように頷いて、柚葉の方を向く。


「私の案は成功だったということね」


「否めねえ」


「せっかくだからご飯でも食べて行こうかしら。メイドさん、晩ご飯の準備をしてもらってもいいかしら?」


「え、でも」


「今日は忙しくてお昼食べ損ねたからお腹ぺこぺこなのよ」


「うう、じゃあちょっと着替えてくる」


「メイド服のままでいいよ」


「わたしがよくないのっ!」


 何だかんだ言いながらメイド服を堪能した香椎直葉だった。

 こいつも俺と寸分違わず変態野郎だな。


 妹はむっつりスケベ、姉はオープンスケベ。つまりこいつら変態姉妹ということか。

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