悪役転生?いいえ記憶喪失です。

渡辺

第1話 記憶喪失

 ある日、ユーラシア大陸の中央の森林に一本の木が生えた。誰も彼もがそんな些細な事を気にしない。その木は他の木同様、誰にも知られぬままどんどん、どんどん成長していった。

 100メートル付近まで成長した時、ようやく皆が異変に気付いた。けど皆、自然の神秘に惹かれ魅了され誰も彼もその危険に気付かなかった。

 ………木は1000メートルにまで到達した。その頃、木の名前は世界樹へと変わっていた。ある時、世界樹に実が出来た。誰も彼もが「歴史的発見」「自然の奇跡」と称賛され、多くの人々が世界樹を見に訪れた。観光客はその自然の神秘に夢中になりメディアは連日連夜その話題を取り上げた。


 そんなトレンドNo. 1の中、その実が弾けた。


「きゃああああああ」


 その実から出たものは、この世のものとは思えない化け物であった。AVE. (Arcane Verdant Enforcer)、今はそう呼ばれるようになった化け物だ。すぐさま世界樹は封鎖され、AVEの掃討にかかった。だが、もう遅すぎたのだ。AVEに近代の兵器の類は殆ど通じず、日が経つにつれその数は倍以上に増えていった。その様はまるで環境汚染や自然を破壊する人類に対しての浄化のようだった。

 AVEによってユーラシア大陸の殆どが占領され人類の半分以上が亡くなった。だが、ここから人類は反撃の狼煙を上げる事になる。AVEと言う、超常的な力を持つ化け物を研究する事によって作り出された兵器が完成したからだ。 AEC(AVE Energy Conversion)。その兵器は、人に元々備わっている生命力(Prana)を異能の力に変える物だたった。


「で、その異能力は人それぞれの個性によって形を変えるね……、この厨二病が作り上げた設定ってマジなん?」


 どうも、こんにちはこんばんは主人公の水無瀬蓮だ(名前は今さっき知った)。どうやら俺は目の前の美人でメガネの医者から記憶喪失と診断されたぜ。今よく分からんが記憶を刺激して思い出せるかどうかの確認だ!何にも思い出せねえー!!


「ええ、そうです。思い出せそうですか?」


「全然全く」


 けど、え、マジ?そんなヤバい世界やったんやな。なぜ俺は記憶が無いのに、この世界がヤバいと分かるんだろう?記憶なさすぎて何を基準にして生きてたか分かんねーんだけど。まぁ、脳みそはブラックボックスだ。考えても分からんもんは考えんどこ。


「そうですか。記憶以外の外傷は全て治したのでお帰りいただいて大丈夫ですよ」


「あ、はい。そうですかって帰るわけねぇだろ!どこに帰ればいいんだよ!」


「分かりました。しばらく入院という形で記憶の治療を試みます。ご家族や学校側にはこちらから連絡します。何か問題や質問はありますか?ありませんね。さようなら。」


「えっ、まっ」


 そう言ってクソ医者はそそくさと出て行ってしまった。え、マジかよ。俺の人間関係とか、どこどこの学校に通ってるとかじゃなく。この世界の歴史と名前だけ教えて帰りやがった………。

 何?これが普通の医者の対応なの?記憶ないから分からないんだけど。まぁ、いい。荷物を確認すれば何か思い出せるだろ。


 俺はそう思い。病室にある何かしら荷物が入ってるカゴをとって中を確認した。


 えーど、どれどれ。腕時計にネックレス?なんか書かれてあるなAEC?アークって読む気がする………これさっきの歴史に出てきた。異能力を発動させる兵器じゃなかった?なんで俺が持ってんの?待て待て待て、普通に考えて名前が同じだけだろう。………けど、ちょっとつけて異能力が発現するかどうか確かめるのは大事だよな。うん、確かめるのは大事な事だ。俺は厨二病じゃ無い。


 俺はそう思い、ネックレス?をつけて言った。


「水よ現れよ」


 不思議と何故かその言葉が出た。その瞬間、俺の目の前に水の塊が浮かんだ。


 えええ!!!マジかよ。本当に異能力使えやがった!?なになに俺は水使いなのか?


「火よ現れろ!風よ集まれ!土よ守れ!」


 他の言葉は全く反応しなかった。どうやら俺は水使いらしい。………て言うか目の前に出した水の塊どうしよう。なんとなくイメージで動かせるな。


 俺はそう思い、病室の窓を開けて空に向かって水を飛ばした。


「アクアバレット!水弾!ウォーターカッター!」


 全部見た感じ同じ威力と言うか途中で霧とかしてる。技名とかで効果は変わらないらしい。て事は何も言わなくても異能発動できんの?

 ――プシュ――………出来ちゃった。これって恥ずかしい奴?


「ふふ、ぷぷぷ」


 おっと、いつの間にか戻ってたクソ医者俺の醜態見て笑ってやがる。だが待て、俺は異能力者だ。AECだかLEDだが知らんが、こんな兵器を持ってる俺はきっと凄腕の能力者に違いない。


「フッ、何を笑ってやがる。俺は異能力者だぞ!」


「ええ、AECをつければ誰だって異能力者です」


「………けど、このAEC俺のだよな。つまり俺の異能力が特別だから持ってるんじゃ」


「いつの時代の話ですか?オーダーメイドじゃなければAECなんて、そこら辺のコンビニで売ってますよ。あと、水の能力者は一番数が多いですよ」


 えぇ、コンビニに売ってんのかよ。て言うか水の能力者一番多いんだ………、て事はただのモブやん俺。


「あ、ちなみにご家族とは連絡取れましたが。医療費だけ払うそうです。記憶喪失について話しましたが本人の意思に任せるとだけ、学校側にはしばらく休むと伝えました」


「ん?おい待て。俺の家族なんて言ったん?」


「『本人の意思に任せる』と。つーか、そんな事も聞こえねーのかよ耳悪」


「一気に口悪くなったな!?て言うか何?もしかして俺嫌われてる?」


 そう言った瞬間、医者の瞳が冷たい光を帯び心底軽蔑しきった声で言った。


「ようやく分かりましたか?」


 俺のプレパラートのカバーガラスのハートは粉々に砕け散った。




 あとがき


 またもやノリで作ってしまった………

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