第7話 『先見』発動

ある時、イエリの先見の能力が発動した。


そこで見たものは、魔物たちによるひどいスタンピードだ。地を這うものから空を飛ぶものまでが、何かに追われるように真っ直ぐ王都にやってくる。


王都の警備は万全といえど大量の魔物がやって来るとなれば話は別だ。早急に対策が必要だろう。



「西からスタンピード、だって?」


「ええ。王都の西側に位置するいくつかの村や町と、それと……西門が破られるのが見えたから。」


「そうか。すぐに準備しよう。」



ローベルトは魔道具開発や魔術式を編み出す第一人者として名が知れている。それこそ、隣国での評判は自国の王にまで届き、その功績を讃え本人不在のアショフ伯爵家に報奨を贈られたこともあるくらいだ。


そのローベルトが話しを通してくれるならありがたい、イエリはそう思った。



「まだ、私の先見で見ただけなのよ。……そこまで大事にしていいのか計りかねるわ。」


「いや、私は君の力を知っているし……もしなかったとしても備えることは大切だろう。問題ない。」


「ありがとう、ローベルト。」



先見で見えたことを元に、今まではベッカー伯爵家の財力なりを使って密かに動いていた。だからほかには知れず、それがすべてジンナムの功績になっていたのだ。


今回のことは、シュナには知り得ない。先見の能力がないのだから。

つまり、ジンナムもスタンピードが起こることは知らずにいるだろう。


イエリは、必要な軍備を予想してメモを取りローベルトに渡した。



「魔道具に込める魔力も足りなくなるでしょうから、私も協力しますと伝えてちょうだい。」


「了解した。」



メモを持って、ローベルトは急ぎ王宮へ向かうのだった。


以前まではすべてをイエリひとりでやっていた。他の人に話すと、その賞賛がジンナムにいかないからだ。しかし、今はこうしてイエリを助けてくれるローベルトがいる。


イエリは改めて、婚約破棄してよかったと心から思うのだった。







「スタンピードだと?」


「アショフ伯爵令息、その情報は確かなのか。」



早急に国王との謁見を申し出て、その緊急性からすぐに王に会うことができたローベルト。謁見の間には、宰相である王弟もいた。



「はい。ここだけの話にしていただきたいのですが、我が婚約者であるベッカー伯爵家のイエリ嬢には『先見さきみ』のスキルがあります。」


「何?! あの珍しいスキルを?」


「はい。公表はしていませんので内密に。」


「いや、もちろんだ。そんなレアスキル持ちは多方面から狙われるだろうしな。ほかには漏らさぬ。約束しよう。」


「ありがとうございます。」



ローベルトは、その貢献度から国王の覚えも目出度い。彼の言うことはすぐに通った。



「急ぎ必要な物を揃えるのだ。」


「はっ、かしこまりました!」



国王は、国防を担う長官と話しをしてすぐに、西側の防御を固めるために動き出した。




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