第5話 そろそろやばい従姉妹

食堂に、ベッカー伯爵家の面々とシュナが集まっている時間のことだった。


ローベルトと婚約してからというもの、幸せな日々を送っていたイエリとは対照的に、ジンナムと婚約したシュナの顔色はあまり良くなかった。


どうやら何かあったらしい。しかし、もう自分には関係ないとイエリは食事を進めていた。



「イエリは最近楽しそうね。」


「ええお母様。ローベルトといると、つい時間を忘れてしまうの。」


「あまり危険なことは、しないでくれよ?」


「お兄様、今度ローベルトの家にある研究室に、一緒に行きましょうよ。」


「昔、お前たちの作った失敗作の魔法式に巻き込まれたことがあるってのに、もうごめんだ。」


「もうそんな失敗しませんわよ」


「わからないぞ? 注意するに越したことはない。」


「それは、そうですけど……。」



楽しそうに話す兄妹をよそに、浮かない顔のシュナ。ぽつりとイエリに話し出した。



「お姉様。ジンナム様は、お仕事ってされていますの?」


「仕事? さあ、知らないわ。」


「なっ……そんなっ、ご存知でしょ? 教えてください!」



乱暴にカトラリーを置き大声を出すシュナ。マナーがなっていない、とその場にいる皆が思った。

シュナを引き取ってから、平民ではあるが苦労しない程度のマナーや学は必要だと思い家庭教師を付けた。しかし本人にやる気がなくなかなか身につかないので心配はしていたのだ。



ジンナムは、どうやらシュナの魔力量などに疑問を感じているのかもしれない、とイエリは思った。

仕事をしているか、と言われれば答えは否だ。すべてを婚約者であったイエリが負担していたのだから。



「私にあれやれこれやれって言ってきて、でもご自分では何もなさっていないの。イエリはこれくらいこなしていた、と押し付けられて……魔道具に魔力を通しておけだなんて! 私は発魔力機ではないですわ! 新しい案を出せ、どこかで災害は起きないのか? って、毎日毎日……!」



イエリは、自分は目立たず行動して、それをジンナムと公爵家の功績にしていた。

しかしシュナが嘘を信じ込ませ、それらは自分がやっていたと言う。

つまり今イエリが居ないことで新たな功績を上げることができない。しかしシュナがやっていたと信じたジンナムたちは、シュナにそれをやれと詰め寄ってくる。まあ自業自得だが。


シュナが何もやらないことから、公爵家の人々もそろそろ気づいているかもしれない。


あれだけ勝ち誇っていたのにイエリに助けを求めるなんて、ずいぶんと面の皮が厚いことだ。



「私もベッカー家も、もう公爵家とは何の関係もありません。それに、あなたが自分で言ったのでしょう? それは私がやった、と。」


「ベッカー家も、って……酷いです!」


「シュナもこれからは公爵家の人間になるんだ。きちんと自分の言ったことに責任を持って努力しなさい。」


「お、お父様……!」


「何度も言うが、成人まではここに住んでいいと言ったが、それ以上のことを求められても困る。」


「なっ……!」


「やっていたのなら、出来るでしょう? まあせいぜい頑張って。」



ベッカー伯爵のことを父と呼んでいるシュナだったが、それはもちろん、本人には了承を得ていない。勝手にそう言っているだけだ。シュナ本人は、私はかわいい娘よ嬉しいでしょ? といった気持ちを込めているらしいが、伯爵はイエリを可愛がっているので意味がなかった。



そしてシュナは、周りにまったく味方がいない状態で公爵家に尽くさないといけなくなっていることに気づいた。


最初は色香を使ってジンナムを操っているつもりだったシュナ。しかし今ではシュナだけで満足出来なくなってきたのか、ジンナムはいろいろな女に手を出しているようだ。娼館にも通っている。


体も飽きられ能力もないシュナが捨てられるのは、秒読みかもしれない。


そうして遊び歩いているジンナムにも、破滅は近づいていた。





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