昨日の戦友は今日の敵!?(冒頭部のみ)
香豊大
冒頭部
「眩しい」という言葉さえ稚拙に思えるほどの閃光。
もしここが荒野でなかったならば、建物は瓦解し、数千、数万の命が無に帰していたことだろう。
そんな、あり得ないほど高威力の一撃を俺に放ったのは、悪魔でも魔王でもなく、どちらかと言えば天使だった。
戦闘続きの俺の身体はもう、満身創痍で。「どうして……」と訊くのが、精一杯だった。
「君こそ、どうして……」遠のいてゆく意識の中で俺が聞けたのは 、そこまでだった。
「……イン!アイン!」
何か悪い夢を見ていた気がする。大声にハッとして目が覚めた。
「まったく。どうしてこういう日に限って寝不足になってるのよ!」
俺を叱りつけているのは幼馴染のリラ。俺達の関係を知らない人が見たら、結婚式だと勘違いしてもおかしくないほど立派なドレスを着ている。
「昨日も夜まで鍛えてたんだ。眠れてなくてもおかしくないだろ?ひ・め・さ・ま?」
「鍛えてたら疲れてよく眠れるものじゃないの?それに私は姫様じゃない!“勇者様”よ!……自分で言うのは恥ずかしいけど……」
そう。頬を膨らませ、さらに赤らめてもいるが、リラは正真正銘の勇者である。
そんな“勇者様”と俺がどうしてこんなにも対等に話せているかというと、「幼馴染だから」という以上に、5年前の“あの日の出来事”が大きく関わってくる。
「……イン!アイン!」
母親の呼ぶ声がうるさい。最悪の目覚めだ。
「まったく。どうしてこういう日に限ってこんな遅くまで寝てるの!」
今日は1月10日。俺の15歳の誕生日だ。……とはいえ、本当の誕生日はもっと先なのだが。
新年のお祭りがひと段落したこの日、皆が一斉に1歳年を取るようになっているから、俺も他の同級生達も皆、一斉に15歳というわけだ。
そして、この国の風習として、「15歳を迎えた子どもは未来の天職を神様に教えてもらう」というのがある。だから、この国では15歳になった子どもが皆、1月10日から数日の間に教会に行って天職を聞きに行くのだ。
だから今日、俺も村の教会に行くことになっていたのだが、昨日は夜から「剣を近くで見れる鍛冶職人が良いな」とか「農家になったらずっと働かないといけないからやだな」とか考えて眠れなかったため、いつもより2時間も遅い9時に母親に起こされるまで起きれなかったというわけだ。
「ほらアイン、リラちゃんも待ってるんだから二人で早く行っちゃいなさい。」
そう言って母親がドアを開けると幼馴染のリラが腕を組んで立っていた。
「アイン!さっさと準備して!行くよ!」
顔と語気は強いが、足は緊張を隠せていないようで、小刻みに震えている。
「分かったって。あとお前足震えてるぞ。」
足の震えは止まったが、強張っていた顔が赤くなった。
遅すぎる朝食を済ませ、リラと一緒に教会へ向かう。
「アインなんてどうせ農家なんだしすぐ終わるからごはんなんて食べなくてすぐ来れば良かったのに」
「リラこそどうせ主婦なんだからさっさと行って結果だけ聞かせてくれりゃ良かったのに」
なんて言いあいながら、村の教会へ着いた。
教会に入ってすぐ、神父に「15歳になるというのに騒がしい二人だこと」と笑われて少し恥ずかしかった。
「それではこれより、259年、ワミラル国ヤチ村の
「まずはアイン、こちらへ。」
神父に促され、「職眼室」と書かれた薄暗い部屋に入る。
「私が扉を開けるまで、下を向いて目を閉じたまま、手を合わせておいて下さい。大丈夫です。すぐ終わりますから。」
そう言われて扉が閉められた。1分もしないうちに扉が開き、神父が入ってきた。
「おめでとうございます。あなたの天職は剣士です。」
剣士。十中八九国の要人を守るための傭兵だ。暇そうだし、当たりな部類かなと思っていた。そう。この後のリラの結果を聞くまでは。
俺と入れ替わりで職眼室にリラが入って3分、遅いなと思っていた俺の耳にリラの大きな叫び声が聞こえた。慌てて駆け寄ると、リラは膝から崩れ落ちていた。リラは俺を確認するや否や、「私、勇者になるんだって」と言ってきた。にわかには信じられなかった。勇者。てっきり伝説の作り話だと思っていた。魔族を統括し、強大な魔力を操る魔王が現れたとき、一人の新青年に「勇者」の天職が与えられ、修行を積んだ勇者は激戦の末魔王を倒したという話。俺らの親の世代にも、遠い村で勇者が誕生したらしいが、なにせ遠すぎるために真偽は明らかじゃなかった。でも、その伝説だと思っていた「勇者」の卵が目の前にいる。「俺も剣士なんだからこいつを殺せば俺が勇者になれるんじゃないか」なんて思ったけど、顔を綻ばせながら「パパやママになんて報告しようかなぁ」なんて幸せそうに呟いているリラを見て、斬ったらせっかく育ててきてくれた両親に申し訳がたたないと思って踏みとどまれた。
その間、神父はなにやら電話をしていた。聞こえてきた声によると、「うちの村から勇者適正のものが出た」「本当だ」とか言っていた。しばらくして電話を終えた友人が俺達の元へやってきて、「今から、君達には王都に行ってもらう」と言った。勇者の卵であるリラと、傭兵になる俺。一緒に王都に行くことには、何も違和感を感じなかった。
4時間ほど経っただろうか。勇者の誕生はあっという間に村中に知れ渡り、大騒ぎとなっていた。俺も、両親に職眼の結果が剣士だったからこれから王都に一度行くことを伝え、昼食も食べて眠くなってきた矢先、見慣れない馬車が村に来た。中から出てきた鎧の大男は、「勇者リラ様と剣士アイン様をお迎えに上がった」と言って外で待っていた俺達を馬車に乗せた。
馬車の旅は意外にも快適で、村では飲めないおいしい飲み物を飲みながら、リラと今後の展開を話したり景色を楽しんだりしていた。
王都に着くと、空は既に暗くなっており、人工的な明かりが付いていた。発展度合いに感動していたのも束の間、豪華な部屋に連れていかれ、俺達は座らされた。目の前には人形がポツンと置かれ、戸惑っていると広い部屋の反対側から、豪華な服を着た大男が入ってきた。この人が国王だと後々知らされることとなるのだが、豪華な部屋と大男のオーラに気圧されていた俺は、目の前の人物が誰かなんて考えることすら出来なかった。
「勇者が適正だと神に示されし青年、名を……リラと言ったか。」
リラは言葉を発さずこくりと頷く。
「その素質を儂に見せてみろ。この剣で、目の前の人形を斬るのだ。どこを斬っても構わん。」
そう言って、リラに渡した剣は、村の鍛冶屋で見かけるような剣とはまるで違う、左右対称ではない形で、オーラすら纏っているように見えた。
リラはその剣を手に取り、人形の前に立つと、一息に首のあたりから斜めに振り下ろした。
俺は頭を抱えそうになった。当たり前だがリラは武器、ひいては木の棒ですら剣のように振り回したことが無いが、その剣先は人形に届いているようには見えず、振った当人の足も今日の朝のように震えている。
「ふん。勇者というのはデマであったか。また神父を一人無くすことになるな。」
国王が言い終わるのが早いか同時か、ゴトッ…と音がした。その光景にはその場にいる全員が驚かざるを得なかった。そう、人形の頭が落ちたのだ。
国王と俺は声を出せずにいた。当の本人は「斬れ……ちゃった」と言って、朝と同じように膝から崩れ落ちた。
それから、「勇者」リラの5年にもわたる修行は始まった。
ちなみに俺はというと、「勇者と同郷で剣士、魔術師、僧侶のいずれかに選ばれた者は勇者の指名があれば勇者に同行すること。」という規定をリラが聞いた瞬間に指名された。
これこそ、俺が「勇者」リラと対等に話せている最大の理由である。
ちなみに、未だに魔術師も僧侶も俺らの仲間には居ない。
俺は、これからの「勇者リラの冒険」に希望と不安を抱きつつ、この幼馴染を全力でサポートすることを昇る朝日に誓った。
昨日の戦友は今日の敵!?(冒頭部のみ) 香豊大 @castor0516
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