第36話 こいつを、殺せ!
『こいつを、殺せ!!!』
次の瞬間、僕の頭上を突風が吹き抜けた。三つの巨大な電気の球が、先生に向かって飛んでいったのだ。
バヂヂジュシュウウウウッ!!!
大気を震わせるようなような激しい感電と燃焼の音が聞こえる。続いて肉の焼けこげるような臭いがし、黒い人型の塊となった先生がその場にドサッと崩れ落ちた。静寂が辺りを包む。
うん。
いい感じ。
「「「きゃ……きゃあああああああああああ!?!?!?」」」
後ろで女どもが悲鳴を上げる。
それには構わず僕は、懐から蜜入りのペットボトルを取り出して化け物に与えた。化け物は哺乳瓶を貰った赤子みたいに、それに食らいつく。そしてペットボトルごとバキバキと噛み千切ってしまった。ペットボトルは貴重だから、この噛み癖はなんとかしないといけない。
「ど……どうして……どうしてそんな簡単に人が殺せるのよ!?!?」
目の前で人が殺された事に怖気づいたのか、奉日本が腰を抜かした格好のまま叫ぶ。
「だから何を言ってるか解らない。自分に敵対的な人間なんて、殺して当然でしょ。人間って生き物はね、普段は法律がそれを許してないから結果的にしてないってだけ。すれば法律に違反するし、他の人間に自分を攻撃する正統性を与える事になるからね。だから普段はしないの。でもここに法律はない。だからするって、それだけ。そんな簡単な事がなんで解らないの? 知的障害なのか疑うレベルなんだけど」
「そ、そ、そんな訳ないでしょ!!! そんな人間居ていいはずがない!!! アンタだって、アンタだって本当は……やっちゃいけないって思ってるはず……!!!!」
あはは。
まーた僕の存在否定されてるよ。
ウケる。
「だって先生が僕を殺すって言うんだもの。仕方がないよ」
「言ってないでしょ!!!?」
「僕にとっては同じ事さ。それよりこのままじゃみんなも危ないけど? 奉日本さん曰く居ちゃいけない人間である僕だから、何をしちゃうか解らないよ? ほら、今の僕って、その気になればこの場に居る全員殺せちゃうからさ」
言って背後の化け物を指差す。
化け物は僕の事なんか気にせず、指先に付着した先生の血を舐め取っていた。
む……もしかしてこいつも人食うのか?
だったらそこは気を付けておかないと。
僕が襲われたら元も子もない。
「!?!??」
それはともかく、僕の一言で女子たち全員がまた一歩退く。中には必死で泣き出すのを堪えている女子も居た。その恐怖で一杯な顔がたまらなくキモチイイ。脳髄と股間にドクドク来る。
「僕なら彼にみんなを殺さないようお願いする事ができるんだ。この化け物に殺されたくなかったら僕の言う事を聞くんだ」
「……!」
「安心して。僕に敵対しなければ、誰にも危害を加えないことを誓うよ。それに彼が居ればあの危険なサルも近寄ってこないしね。僕の蜜の能力と合わせれば、これでみんなかなり楽に生活できるよ。よかったね」
「い、いいわけないでしょおおおおおおお!!!!??」
「なんで? 全部解決じゃん。これでこの島で幸せに暮らせるよ」
「アンタにとってはね!!!」
「? みんなもじゃない?」
僕はそう言って、奉日本の背後を指差した。彼女は振り向く。
すると、デブの佐々木を初めとする、僕の蜜を貰っていた連中の計4名が顔を背けた。
「そっちのキミたちはどう? 僕と一緒に暮らすの、そんなに嫌?」
「……!」
「黙ってると殺す」
「ひっ!?……い、い、いっ、嫌じゃない、ですううううう……!!!!」
「なんでもしますから助けて!!!!」
ちょっと脅してやるだけで、僕に恭順の意を示す。みんな跪いて両手を合わせ、僕に命乞いし始めた。
「そ、そんな……!?」
彼女たちが僕に従った、つまり寝返った事に、一番ショックを受けたのは奉日本だった。その表情はすっかり動揺しきっており、最早何も言えないみたい。完全に僕の勝利。
「ふふふ……! 残念だ……! 実に残念!! 時坂が死んで、本気で激昂してる人間って実はそんなにいないんだよねえ!! だって大半の連中は、自分さえ生き残れればそれでいいんだから!!! 特に今顔を背けたそこの4人みたいな連中はねえ!!!!」
ここに居るどいつもこいつも、僕の勝利を否定しない。否定できない。
ふふふ。
一度こうなってしまえば、今僕に忠誠を誓った連中は、最早僕の味方であるしかなくなる。まあ元々僕の蜜が欲しくてしょうがないって連中だから、よっぽどの事がない限りは僕に好意的な解釈をしただろう。以前僕が名探偵を気取っていた時も、一緒に時坂を吊るし上げかけたし。
そして、こうやって仲間内から誰か裏切れば、他の奴らも裏切り易いだろう。奉日本もいずれ僕に従うしかなくなる。
ただし、意外だったのはアピス。僕の予想では彼女も僕の前に跪いて恭順の意を示すはずなんだけど、こいつだけは燃えるような目で僕の事を睨み返している。怒っているのかな?
だとしたら、どうして?
わからない。また何か後悔しているようにも見えるけれど。きっとまた訳の分からない事で葛藤してるんだろうな。私のせいで~、とか思っちゃって、悲劇のヒロイン気取りなんだ。まあそんな事はどうでもいい。それより次の事を考えよう。
そう思って、僕は残る16人を見回す。
「うーん……」
とりあえず一匹殺しておいて正解だった。春奈先生は居てもどうせ役に立たないウジムシだし、食い扶持を減らす意味でもここで殺しておくのは有益だろう。
他にも間引くべき人間はいるかな?
まず……奉日本。
こいつは見た目もいいし能力もあるから、残してやってもいい。僕の手で次世代の会長に育ててあげよう。場合によってはあの桃も一個ぐらいはあげてもいいし、ちゃんと僕のいう事聞くなら、この島の女王にしてあげなくもない。
他の女子も、僕への忠誠次第によっては、桃を付与してやってもいいかな。可愛い子限定だけど。
まあ、その辺は後々考えよう。あまり強くし過ぎて、この化け物で抑えられなくなるのもマズい。
あ、それよりもう一人要らない奴がいたわ。
パチン。
僕は今度はデブの佐々木を指差して鳴らした。
佐々木はスペックが低いくせによく食べるから無駄だと思ってたんだ。僕の蜜も無限に出せるって訳じゃないし。
のそり、化け物が佐々木に歩み寄る。以前に僕の頭を押さえつけた時のように、そのシュロの幹のように大きくて毛深い手をそっと佐々木の頭の上に置く。
「え……?」
そしてグシャリ。佐々木の頭を潰した。まるでアルミ箔で作ったボールでも潰すように。顔だけスリムになった佐々木が横に倒れる。
可愛くなれてよかったね。
顔面が崩れたおかげで以前より美人度十割マシさ。
「「「いっ……イヤアアアアアアアアアアア!?!?!?」」」
途端にその場に残っていた全員が逃げ出す。化け物と正反対の方向に。みんなの恐怖に感化されたか、今の今まで僕に反抗していた奉日本すらも取り乱した様子で逃げていく。途中何度も転びそうになりながらも、洞窟まで必死で走っていくその様は見下せるのでとっても可愛く映る。
お、逃げたか。
まあいい。どうせこの島に居る限り逃げ場なんてない。あんまりこの化け物から離れれば、今度はカニクイザルの餌食になる。だからいずれ僕の下に帰ってくるしかないだろう。船も僕の持ってる鍵がない限り動かないし。その後たっぷり躾けてやる。
僕は逃げていく女どもを見送りながら、そんな事をのほほんと考えていた。
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