被華観(はなみられ)

Aiinegruth

被華観

「ひとはすっかり減ってしまったのかと思った」

 風は未だ冷たい。河川敷に照る斜陽は、この喧騒たちをセピア色の記憶へと染める手助けをするだろう。土手に並んで花を栄えさせ、言葉を落とす樹の幹の横に、ひとりの青年が立っている。多く重なったブルーシートを酒と交流で賑やかし、年始を祭っている花見客のうちの誰かではない。彼は手元の折り紙に翼を与え、遠く、河の向こうに届くように、投げる。

 穏やかな一瞬が凪ぐ。ひとは華に観られていることを知らない。だから、その黒色の飛行機を土手の全ての桜が追ったのに――――、誰も気付かない。

「病が流行っていたんだ。でも、しばらくしたら元通りになるよ。きみは奇麗だから、忘れられたりしない」

 春はひと吹きの嵐の季節だ。咲いた複数の小さな悲鳴の群れを足下に、つむじ風に舞う花弁とともに戻った折り紙を片手で掴んだ青年は、ゆっくりと帰路へ向かう。

 被華観はなみられの彼は、また花を言葉とする日常へと。

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