1. 黄昏-25

*****



―――数日前、篠井さんの家にて。




「そんなの決まってるでしょ! 間に合わなくて許せないに決まってる!」


 寺田さんは怒りに満ちた目をしていた。


「私があの場で着るはずだったのに、あんな買ってきただけのドレスなんか着せて。本当に責任取ってほしい」


「そこまで言わなくても……」


「言うわよ! だって、だって……」


 彼女は涙をぬぐい、燃える目でこちらを見つめた。


「あの子がいなきゃ……私は普通の人間だから……」


 それはかがり火のように、切なく燃えていた。


「完璧じゃなくてもよかった。あの子が作るドレスだけが、私にとっては特別だったから。だから作りかけでも、もし途中で壊れてしまうとしても、私は着たかった」


「……流石に壊れることは望んでないと思うけどね」


「たっ、ただのたとえ話よ。とにかく、私はが間に合わなかったことが許せないの!」


「……そっか」


 僕はようやく、この言葉で安心できた。今なら彼女と会わせることが出来そうだ。寺田さんも殻を破って、真心で彼女と向き合うことができる。でも、きっと寺田さんも不器用だから、正面からぶつかってもうまくはいかないだろう。


「じゃあ、公園に行ってから、二人きりで話してみて」


「え、そんなのできるわけ……」


「きっと、篠井さんはもっと臆病になってるはず。だから、寺田さんは強く向き合ってほしい。もしうまくいかなかったら、僕が話している間に、最高の『お姫様』になって」


「最高の『お姫様』って、そんなのどうやって」


「そんなの簡単だよ」


*****


 笑えばいい。僕はそれだけを伝えた。

 でもあれほどにまできれいな笑顔を想像するほど、僕は寺田さんのことを理解していなかったのかもしれない。


「本当に君のおかげだよ。私が輝けるのは」


「そんなことないよ。ちょっと、締め付けすぎ!」


 僕は涙を誘う二人の無邪気な笑顔から目を逸らし、夜空を見上げた。

 木々に囲まれた、箱庭のような公園からでも、心なしか今日の夜空は明るく見えた。

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