1. 黄昏-23
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「え……」
私は実のある言葉を失ってしまった。
「ごめんね。こんなに醜くて」
目の前からは、聞きなじみのあったはずの声が聞こえた。掠れながらも、確かにあの声だとわかった。ただ、暗闇に浮いているように見える顔は、決してその声と一致するようなものではなかった。
「でも、詩歌ちゃんはとてもきれいだよ。そのドレス。私が作った失敗作だけど、それでもよく似合ってる。流石『お姫様』だな」
私の顔は涙でどうにかなってしまいそうで、それでもその涙を袖で拭こうとはしなかった。彼女の作ってくれたこの最高傑作を、私の涙なんかで濡らしていいわけがない。
私が知る彼女は、ずっと強い存在だった。好きな裁縫のことでは誰にも何も譲らない、強い信念を持っている子だった。そんな彼女が憧れで、自分の破けたジャージを夜な夜な縫い合わせたくらいだった。何の技術もない私がまねごとをしても、彼女に近づくことが出来ないことくらい、わかっていた。
でも何かしたくて。でも何の信念もなくて。
誰かの真似事しかできない私が憎くて。
でも彼女は、私が思っていたよりずっと脆い存在だった。信念を貫くことが、それほど大変なことか。平気な顔してドレスを持って帰る彼女を応援することしかできなかった私にそんな考えは及ばなかった。私のがんばれの一言が、どれほど彼女の心を締め付けていたか。
「そうだね。私は人に助けてもらってばっかで、誰かの力がないとダメな、お姫様だよ」
「え、違う。そう意味じゃない。私と違って、とてもきれいで。本当に美人で。だから」
震える声にハッと我に返ると、目の前で泣いている老婆がいた。
違う。私はこんな泣き言を言うためにここに来たわけじゃない。
刹那、彼女は公園の出口に向かって走り出した。
「美津紀さ……ん」
私はそれを視界の外に追いやって、下を向くことしかできなかった。結局私は友達一人説得することもできなかったのだ。
私は彼女の努力の結晶を握りしめて、ただ涙を流すしかなかった。
でも、私は一人じゃない。
もちろん、彼女だって。
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