1. 黄昏-19
「前、天川くんを駅で見かけて話しかけようとしたら、階段の陰から美津紀さんが走って出てきたの。その時見た美津紀さんの身なりが、明らかにおかしかったから、きっと何か事情があるんじゃないかなって思って、それを天川くんがいつか話してくれるかなって思って。ずっと引っかかってたし、昨日だってちょっと様子が変だったし。今日ここに来たいって言った時に、やっと確信した」
「……僕に近づいたのは、それが知りたかったからってこと?」
元々クラスで全く話さない間柄ではなかったものの、明らかに最近の接触回数は不自然だった。
「あ、いや、別にそういうわけじゃないよ。普通に天川くんとは話したいなって思ってたし」
「……うん」
僕は多少なりとも寺田さんに気を許していたところがあったことを認め、それが僕の勘違いであったことを理解し、なるべく視界に顔が映らないように顔を逸らした。
「それに、私だって、悔しいけど昨日まで、昨日あのニュースを見るまで、美津紀さんのこと考えたことなかったし」
「篠井さんは、今並々ならない事情で、多分今日もここに戻って来ない」
「じゃあ助けてあげないと」
「今、寺田さんが会うのは少しまずい」
「……なんで? 私じゃ役不足なの?」
「多分、篠井さんはそのドレスが原因で悩んでるんだと思う。そして、そのドレスを着るはずだったのは、寺田さんだった。きっと今、寺田さんが篠井さんに会ったら、彼女はもう戻って来れないかもしれない」
「……」
何か反応を待ってみたものの、聞こえてきたのはすすり泣きの音だった。
贅沢に一息置いて、僕は話を続けた。
「僕は決して長くない期間だけど、何とか助けてたいと思って色々考えてた。そして、ここでやっと、彼女を救うことができる手立てが見つかったんだ。でも、慎重にしないと、僕たちはまた遠のいてしまう」
「……私に今できることは何なの」
やっと寺田さんの方を見ると、膝を抱えて顔をうずめていた。寺田さんなりに何か考えていることはあるのかもしれないけど、僕は嫌われる覚悟で問いかける。
「寺田さんは、ドレスが間に合わなかったことについて、どう思ってる?」
声にならないような息で、寺田さんは反応した。でも、それは誰にも届かない揺れだった。
「ドレスが間に合わなかったこと、篠井さんのこと、どう思ってる?」
「そんなの決まってるでしょ!」
寺田さんは声を荒げる。彼女の快活さに火が着いたような声に、僕は期待する。
顔を上げた寺田さんは、決意のまなざしで続けた。
僕はその言葉を聞いて、驚きつつも尊敬の念を抱いた。
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