1. 黄昏-17

「一本見送ってよかったね。やっと動き出したのもあって、みんな人混みとかお構いなしに乗っちゃうんだから」


「でも、普通列車でよかったの? 人混みでやられない?」


 寺田さんはまた普通列車に乗り、今二人掛けの席に座っている。電車が動き出せば一番混むのは本数が多い普通列車だというのに、また座りたかったのだろうか。


「まあね。別に急いでるわけじゃなかったし。暗くなってるし、誰かと一緒の方が安心できるかなって」


「確かにそうだ。そこまで気が回ってなかった」


「別に謝らなくていいよ」


 束の間の沈黙が長く感じられ、次の駅に着くまでは話題探しに努めた。


「あ、あのニュース……」


 寺田さんの目線の先には、車内で次の駅や運行状況、ニュースや観光情報などを知らせる画面があった。そこには、ある有名なデザイナーが人身事故で無くなったというニュースが流れていた。それはまさに、今日この路線で発生した事故での犠牲者であり、今年の花火をデザインした人でもあった。


「あの人の服、好きだったな」


「よく知ってるの?」


「うん。あんまり話題には上がらないけど、私はあの人の作るワンピースとかドレスとか、着てみたいなって思ったことが小さいころにあったから」


 そこまで話してから、寺田さんはふと思い出したかのように、目を見開いた。


「美津紀さん……」


 僕ははっと息を飲んで、寺田さんの次の言葉を待った。


「美津紀さんに頼んだドレスも、あんな感じだった」


 画面に目線を戻すと、あの日彼女に見せてもらったものと全く同じデザインのものが映っていた。でも、一つだけ違う点があった。


「花びら……」


「うん。ずっとどうしようかと悩んでいた、花びら。私が別にいいって言ったんだけど、美津紀さんは曲げなかった。これが私の集大成だって意気込んで。天川くんにも言ってなかったんだね」


 画面に映る花びらは、白いバラのようなものだった。体育祭の一週間前、明らかにドレスは出来上がっているのに、まだ未完成だと言い張った彼女の意図はそこにあった。


「まさか今もバラ作ってたりして。全くあの子は」


 その時、僕は彼女を救う手立てを思いついた。


「行こう!」


「え?」


「篠井さんの家に行ってみよう!」


「……はい?」


「もちろん、今日じゃないよ。きっと寺田さんは疲れてるだろうし、僕もちょっと疲れ気味だし。でも、僕たちなら」


 共に篠井さんを心配する寺田さんと僕。

 僕の想定するシナリオには、寺田さんの存在も必要だ。


 忘れないうちに、彼女を救わなくては。

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