1. 黄昏-16
*****
花火も佳境に入ったようで、大輪の花で夜空が彩られていた。
「もしもし、そっちは無事?」
もう少しでそっちに着けそう、とスマホの奥から声が聞こえる。一通りみんなでの会話を楽しんで、僕は電話を切った。
「よかったね。あっちも楽しめて」
そうだね、と言おうとした時、寺田さんの顔が思ったより近いことに気づいた。薄く化粧したのか、少しほほが赤くなっている。元々美形な顔が、もっと美しく見えた。僕は気が付いていないふりをして顔を離す。
「せっかくだし、最後にはみんなで写真撮れるといいね」
「あ、そうだ」
寺田さんはスマホの画面をこちらに向けて、指を二本立てた。
「二人でも撮ろ!」
僕は少しかがんで画面に収まろうとするが、なかなかうまくいかない。
「うーん。やっぱり天川くんが撮ってほしい。身長高い方が多分うまくいくから」
「あんまり自撮りやったことないから、多分下手だよ」
僕は自分のスマホを取り出し、斜め上に構えた。すると寺田さんは僕の体に引っ付くように寄ってきた。ふわっと漂った花のようないい香りが鼻腔を満たす。
「撮れた?」
二人で確認すると、少し暗いものの、ブレずにとれていた。ただその暗さも、自分の引きつった顔を隠してくれると考えると、よかったのかもしれない。
僕は寺田さんに写真を送ろうとグループチャットのメンバーから探し出す。久しぶりに開いた画面には、体育祭の時に送ったクラスTシャツのサイズについての会話があった。
「懐かしい。あのTシャツそろそろタンスから引っ張り出さないとな」
「……そうだね。あのデザイン普段着にもできそうだから好きなんだよね」
Tシャツのデザインは僕が担当したが、印象画のようにシンプルな図形を並べただけの簡素なもので、確か篤史と寺田さんの助言もあってそのデザインにしたんだっけ。
「だったらよかった。まさか発注担当のTシャツ係がデザインまでするとは思ってなかったから、寺田さんもありがとう。篤史と一緒に手助けしてくれて」
「いや、私はいいなーって思ったから言っただけで」
寺田さんは顔をそらした。僕は何となくその目線を追うと、
「よっしゃあ。やっと会えた!」
篤史ともう一人のクラスメイトがこちらにやってくるのが見えた。
「ほんとようやくだよ。何ならもう電車動いてるもんね」
もう一人のクラスメイトが駅を見て言う。
「よりにもよって今日バイトだったから。いつものバスだったら俺らも来れたはずだったんだけど、まあ仕方ないか。でも花火見れたからよかったじゃん。多分駅じゃ屋根で見れなかったし。圭司も見れたでしょ?」
「うん。ちょっとはぐれたけどよく見れた。ね?」
「そうだね。人がすごくて」
寺田さんがうちわであおいで、やれやれという様子で笑う。
僕たちは祭の看板の前で写真を撮り、彼ら用に買ったベビーカステラを渡した。そして彼らはバスに、僕らは電車に乗った。
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