1. 黄昏-14

 徐々に人混みが濃くなっていくのが感じられた夕暮れ時。神輿がこちらにやってくる。僕たちと変わらないか、それより少し年上のような若い衆が、何とか足で踏ん張りながら鳥居をくぐった。僕たちはあらかじめ見えやすいところで座って、焼きそばとベビーカステラを食べていた。


「天川くんも、いつかああいうのするの?」


「あれはたぶん無理かな。自治体に入らないといけないはず。ていうか、そんなのできそうに見える?」


「もしかしたらあるかもしれないじゃん。それに、上で太鼓叩いてる人は背も低いし」


「あんなに揺れる神輿の上で立ちっぱなしなんて、体がもたないよ……」


 神輿が止まって休憩に入ったタイミングで、寺田さんは席を外した。僕はその間にごみを捨てようと神社の外に出た。しかし、これがいけなかった。


 神輿が再び出ようとした頃、予定より早く花火が始まり、黄昏の夜空を明るく照らした。すると駅の方から多くの人が流れてきた。皆急いで花火が見える場所に行きたがっていたのだろう。


―――ピピッ。


 短めに設定した着信音に気づくことができたのは運が良かった。


「もしもし、寺田さん。今どこ?」


「今神社の外に出てきちゃった。天川くん中だよね?」


「ごめん。僕も外に押し出された。駅前のコンビニで待ち合わせよう!」


「うん!」


 僕は河川敷の方に向かう人の流れに逆らって駅の方に向かった。途中で篤史から連絡があり、人が多くてとてもこちらに来れる様子ではないとのことで、それぞれ落ち着いてから電話で話すことになった。何とかしてコンビニまでたどり着いたが、まだ寺田さんの姿はない。

 後ろからポンポンと肩を叩かれた。


「寺田さ……あ」


「私の名前なんだったっけ? たった数時間で忘れるの?」


 不機嫌そうに篠井さんが立っていた。その数時間前とは異なる、普通の篠井さんだった。


「ごめん、篠井さん」


「ちょっとこっち来て」


 彼女はそう言って、向かいのいつもの公園に入っていった。あとに続いて入ると、彼女は空を見上げていた。そこには花火が一面に咲いていた。


「すごい……」


「でしょ? でも一人で見るには寂しくて」


「それは、そうだろうね」


「友達と来てたんでしょ? ごめんね連れ出して」


「ううん。ちょっとなら多分大丈夫」


 僕は手元のベビーカステラの余りを彼女に渡す。


「いいの?」


「うん。家族に持って帰る分は、もうカバンの中に入ってるから」


「ありがとう。久々かもなぁ。こうやって屋台のおやつを食べるのは」


「……」


「あ、別に今の状態とはあんまり関係ないから安心して。専門学校に行くために、中学生の頃からこの時期はコンクールに出すための裁縫で、祭には行けなかったから。小学生以来だから、五年ぶり?」


「家が厳しいの?」


「あー、別にそんなことはないんだけど、将来のためにって考えたら、家から花火見れるしいいかなって」


「でも、もしあのドレス出したら、きっと入賞できると思うよ。本当に」


「ありがとう。でも私はやっぱり、あのドレスにあんまり自信ないな。作るときも色々躊躇ったし、自分の理想のものは作れないんだって思うとね。ティアラも壊しちゃったし……」


 段々しおらしくなっていく彼女に。


「ごめんごめん! 思い出させるつもりはなかったんだけど……」


 僕は慌ててハンカチを彼女に渡した。その時。


「天川くん?」


 寺田さんが公園の入り口に立っていた。

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