1. 黄昏-13
*****
「お待たせ。待った?」
僕が待ち合わせ場所でスマホを触っていると、駅の方から浴衣姿の少女が、下駄をコツコツと鳴らして近づいてきた。
「全然。寺田さんは二番目だし、これから待つかもしれないよ?」
「あ、そのことなんだけど……」
僕は寺田さんから、誘っていた内の数人が体調不良で来れなくなったことを教えてもらった。そういえば最近バイト先で夏風邪が流行っていた気がする。沿線火災のこともあって、バイトリーダーはここ数か月で買い足した胃薬が尽きそうだと嘆いていた。花火は沿線沿いであればほとんどの家から見えるから、彼らも見れるはずだろう。
そんな話をしていると、寺田さんは急に駅に近づいていった。しばらくして戻ってくると、寺田さんは焦った様子だった。
「人身事故でしばらく動かないんだって、電車」
「まじか……」
僕はスマホを取り出し、篤史とのチャット画面を見る。電波が混み合っているのか、メッセージを送っても反応がない。
「篤史たち来れるのかな……」
「だよね…………あ、先行っといて、だって」
寺田さんがスマホを見せてくるのとほぼ同時に、手元のスマホに同様の通知が入った。
「……じゃあ行こうか」
僕はさっきと真逆の方向に足を進めた。駅から少し離れたところで神輿が練り歩くのだが、途中には駅を出てすぐの神社に宮入りする。そのタイミングでは駅が人であふれかえるのだが、寺田さんはそれを見越して早めに集まろうと言っていた。
「早く集まろうって言ったからにはみんなより早く来ようって思ったけど、まさかこんなことになるなんて」
「祭だし、変な人もいたのかもね。それにしても篤史たち来れるかな……」
彼らはこの駅から二駅も離れたところで降ろされたらしく、こちらには徒歩で着ているらしい。彼らも下駄を履いているらしく、到着まで一時間ほどかかるらしい。
「天川くんがいなかったら私、どうなってたんだろう」
「僕も寺田さんがいなかったらバイト行ってたかもなぁ」
「まさかバイト帰り?」
「まあ、そんなところ」
もはや人と会ったら恒例の返しになりつつある。決まり文句のノルマがあったとしたら、達成し損ねることはないように思える。
「お疲れ様。バイトあるのに誘っちゃってごめんね」
「ううん、大丈夫。むしろ祭に友達と行けるなんて久々だったから、嬉しい」
「だったらよかった。私も天川くんと来れて嬉しいよー!」
僕の右腕を両手で握り、宝石のような目を輝かせてこちらを見上げる寺田さんは、それでもきちんとお辞儀をして鳥居をくぐった。なるべく平静を保とうと頭の中で意味のない言葉の羅列を唱える僕も、それに倣って頭を下げる。
「あ、焼きそば売ってる!」
そのまま寺田さんに引っ張られるように僕は屋台の列に加わった。にこやかに屋台の叔父さんと話すその快活さは、オレンジ色の浴衣によく似合っているように見えた。
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