1. 黄昏-9

*****



 なんとなく、夕日に照らされたホームにやってきた。

 何をしようと思っていたかは、わからない。でも、来たらわかるはず。その思いだけで電車に揺られた。

 とりあえず、改札を出てみる。別に今日はバイトはないし、単なる散歩になるかもしれないけど。

 ふと横を見ると、白い花がきれいに植えられていた。昨日帰る時はなかったから、きっと昨日のボランティア活動で篤史たちが植えたのだろう。そして、ここ数日間見かけていたお婆さんは見当たらない。きっとどこか別の所に行ったのだろう。

 少し辺りを歩いてみる。なんとなくコンビニに入って、陳列されているお弁当を、意味もなく眺める。自動販売機の側面に描かれた落書きを眺める。公園にある、誰もいない遊具を眺める。別に何かを買ったり食べたり、乗ったりするわけでもないが、何かここに来た意味を探して歩く。

 結局何も見つからず、諦めて帰ることにした。改札を通ると、ちょうど普通列車がやってきた。運がいい。


 開いたドアをくぐろうとした刹那、ちょうど夕日が目に飛び込んできた。思わず目を押さえる。その時、僕は一つ思い出した。


「会わなきゃ」


 僕は踵を返し、ドアを閉じて走り出す列車を耳で見送った。


「あ」


 ちょうど視界がはっきりしてきた時、見覚えのある顔が飛び込んできた。

 そして、危うく手放しかけた彼女の名前を叫ぶ。


「篠井さん!」


 彼女はこちらを見ているが、焦点はまだ行ったり来たりしている様子だった。


「そうだった。私、君に話すためにここにいるんだよね」


「よかった。思い出せて」


「えっと……」


 きょろきょろしていたが、彼女が僕に呼びかけようとしていることはすぐにわかった。


「天川圭司」


 顔をあげた彼女は、今にも泣きだしそうだった。


「多分、名前を毎日言わないと、二日後にはお互い忘れていると思う」


「うん。私もそう思う。ここに来たのはなんとなくだったし、きっと今日会えなかったら……」


 彼女の頬を流れるものが光った。きっと怖かったんだろう。何度目かの孤独に戻るのは、きっと。


「だからさ、きみ呼びやめない? 名字でいいし」


「……えーと、天川くん?」


「それでいいよ。きっとこれで忘れない」


「また明日も来てね」


 知らない間に到着していた、次の普通列車に乗るよう促される。


「もちろん」


 乗ろうと少し目を離し、視線を戻すと、彼女は改札を走って出て行くところだった。しかし驚いたことに、改札は全く反応していないようだった。

 その現象をさも当たり前かのように気に掛けず、彼女は左に曲がって走っていった。

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