1. 黄昏-7
「夏休み終わったら、すぐ文化祭だね」
「そうだね。模擬店楽しみだなー」
「劇のこと忘れないでよー。ちゃんと来てね」
「わかった。シフト空いてたら行く」
うちのクラスは文化祭で模擬店として焼きそば、劇として体育祭で披露した出し物をアレンジしたものをすることになっている。僕は模擬店、寺田さんは劇のグループに属している。
「今度はみんな衣装あるし、もっとすごいものになるんだから」
「……そういえば、なんだけど」
ふと頭をよぎった質問を投げかけてみた。
「寺田さんは体育祭の時のこと、どう思ってる?」
「体育祭の……ってあれか」
寺田さんは腫物を扱うかのように話し始めた。
「残念だったとは思ってないよ。トラブルで衣装が間に合わなかったのも、私たちが何も気にしてなかったのが原因だし。それに私は、その、体育祭を経験して分かったことがあって。私って結果より過程を大事にしているんだなって。もちろん本番も楽しかったよ。でも、一瞬で終わっちゃったし、達成感の後で燃えつきちゃったのかな。だからみんなで一緒に練習して、準備してた時が一番楽しかったって、今だったら思えるかな。皆もそう思ってるし、本番は過ぎればいいと思うし」
「……本当に良かったの?」
「え?」
「なんか、つらそう」
僕の指摘を聞いて初めて、寺田さんは自分の震える声と爪の跡が残るほど握りしめた拳に気づいたようだった。
「……ごめん」
寺田さんは顔をそらし、続けた。
「本当は、悔しかったし、残念だったって、思ってたと思うよ」
「思ってたと思う、って?」
「もう、あの頃の感情を思い出せない。ただダンスの練習をして、本番をしただけって、思ってる。でも楽しい記憶も、事実しか残らなくなって、その時感じた酸いも甘いも、全部忘れてしまうんだと思う」
構内で、普通列車の到着の知らせがアナウンスされた。
「……乗ろっか」
「じゃあさ」
こちらに顔を見せないまま立ち上がり、進もうとした寺田さんに、自分なりの言葉をかけた。
「お祭りも、文化祭も、楽しまなきゃね」
「……そうだね」
こちらを向いた寺田さんの顔はほのかに赤く、眼は潤んでいた。
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