1. 黄昏-6
*****
「そういえば、昨日駅にいたらしいな。何してたんだ?」
友人―――三浦篤史が、夏休み前最後の登校日の帰路、唐突に問いかけてきた。多分寺田さんに聞いたのだろう。二人は同じ部活に入っており、仲が良いそうだ。
「普通にバイト。夏休み前だし、稼がないとね」
すらすらと、嘘を口から流す。
「そっか。大変だな」
「昨日寺田さんにも言ったけど、篤史の方がきついだろうに」
「まあ俺は暑さに強いからな。走るのも好きだし」
「そっか」
不意に会話が途切れ、篤史の方を向く。そしてその視線を追うと、かつて見かけたしわの多いお婆さんがいた。ふと目が合い、思わず篤史の方に目を遣ると、どこか悲しそうな目をしていた。
「あの人がどうかした?」
「いや、ちょっと気になっただけ。やっぱりこの駅付近でも、ああいう人っているんだなって。」
「この前、駅であの人ににらまれたんだよ。怖くて逃げちゃった」
「ふーん」
篤史を見送り、僕は改札に入った。篤史はしばしばこの辺りのボランティア活動に参加しているだけあって、あのような人を見つけるとどうしようもなくなるのだろう。その慈悲深いところは、僕が篤史を慕う理由の一つだ。
ふと、篤史を祭に誘っていないことを思い出し、ポケットからスマホを取り出してメッセを送った。すると、すぐに既読になり、
『もう誘われてる』
『圭司も来るんか』
『楽しみにしてる』
と返ってきた。
そしてそのトークルームを閉じた時、後ろから声をかけられた。
「すみません、ハンカチ落としましたよ……って、天川くんじゃん」
振り返ってみると、寺田さんが僕のハンカチをひらひらさせて立っていた。さっきスマホを取り出すときに落ちてしまったのだろう。
「あ、ありがとう。今帰り?」
「うん。今日はオフ」
「そっか…………あ、急行来た」
「うーん。今日は座りたい気分だから、普通列車に乗ろうかな」
夏休み前最後の登校日で、部活動等がない全校生徒がほぼ同じ時間に下校するため、駅構内は多くの生徒がいた。しかしそのほとんどが急行列車に乗って帰ることは去年だけ十分わかった。ただ、寺田さんと同じように、たまに空いている普通列車に乗ってゆっくり帰路に就く人も少なくはないようだ。
寺田さんは混み合った急行列車を見送り、
「あっち行こっか」
と、ホームの前へと歩き出した。
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