1. 黄昏-3

「あの」


 裾や袖はズタズタになり、ところどころに小さなが空いていると言ったボロボロ具合の、もはや何の服の種類を名付ければいいかわからないような布切れを身にまとった彼女は、改めて僕に呼びかける。顔はススのようなものがついているように見え、髪も、布に隠れない手も足も、言い方をわきまえなければ汚らしかった。体は全体的に一回り小さくなっているように見えたが、それは制服姿―――それもブレザー姿の彼女しか知らないからかもしれない。


「もしかしてだけど、私達、会ったことある?」


 続いた質問は、僕にとっては素っ頓狂なものだった。


「あるも何も、クラスメイトだけど」


「名前、何ていうの?」


「天川圭司」


「……よかった。思い出せて」


 突然彼女は涙を流し始めた。僕は驚いて周りを見渡したが、誰もこちらを気にしていないようだった。


「何か、あったの?」


「……ごめん」


 少しの気まずい間を空けて問いかけたが、それを遮るように彼女はホームの後ろの方に走っていった。僕はワンテンポ遅れて追いかけようと来た道を走って戻ったが、そこにいたのは怪訝そうにこちらを見る社会の目だけだった。


 夕日が沈んだ、夏の日のことだった。

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