第6話 積み重ねの成果
銃弾が飛び交う。
人がひしめいている。剣、槍、銃。種類豊富な得物を手に敵を滅さんと猛る。
組織的に動く軍隊だ。敵は帝国兵。指揮官から命令を受けて殺到する。
それはあまりに異様な光景だ。前、左右、味方側。数千という戦力が、一点を見て動いている。
中心には黒い衣装をまとう男性。両手に剣を持ってたわむれるように踊る。
得物が落ちる。血がほとばしる。刻一刻と黒い軍服が液体で汚れていく。
赤黒いそれらは、全て黒服の外側から生まれている。二本の剣が敵兵の手を叩き、人に混じる異形を見つけては首を飛ばして頭蓋を砕く。
数千を相手に億しもしない。得物が刃こぼれする前に敵から奪い、新たな武器で戦場を駆け回る。曲芸にも似た現実味のない動きは、見る者に二本以上の腕を幻視させる。
「ひ、ひるむな! 囲んで叩き続けろ! いつか疲れて果てるはずだッ!」
指揮官の声が裏返った。動揺と困惑、苛立ちに揺れる言葉は命令というより怒号に近い。
敵も人間。魔法の恩恵を受けども限界はあるから頑張れと。
至極真っ当な命令だ。何も間違えていない。独りが数千の戦力と拮抗する現実こそ間違えている。
スペックがずば抜けているのもあるが、実際カラクリもある。
黒服の男性は先程からあまり動いていない。地中浅くに隠された魔法陣から供給を受けて、消耗を抑える動きをすることで人外じみたタフさを発揮しているだけだ。
指揮官に機械じみた思考があれば、一対数千のインパクトに思考を支配されなければそのカラクリに気付けたかもしれない。
全ては仮定。そんな選択肢は一時間近く前から取り上げられている。
出会いがしらのインパクトある斬り込み。
数秒で数十切り伏せた大胆な進撃。
足元にある魔法陣の存在を悟らせないためのハッタリ。他にも視線誘導や挑発、使われた技術を挙げればキリがない。分厚い岩盤のごとき積み重ねがそびえ立つ鉄壁として機能している。
一騎当千。
万夫不当。
その無双っぷりは、指揮官に撤退を選ばせるに足るものだった。
「逃がすか」
ラディウスは地面を蹴った。
消耗は最小限。コンディションは全快に等しい。
囲まれても突破できると判断して後を追った。視界に入った魔族を切り捨てながら前進する。
「まだ戦う意志のある物は俺に続けッ!」
どこからともなく声が上がった。いびつな人型がラディウスの前にずらっと並ぶ。
構わず
右に跳ぶ。
一拍遅れて、頭部並みに大きい拳が地面を打ち鳴らした。
「骨のありそうなものもいたか」
土ぼこりに人型のシルエットが浮かび上がる。
雄々しい角が天を突かんと伸びている。隆々とした腕や脚がその屈強さを物語っている。
心がけは殊勝でも魔族。ラディウスに見逃す選択肢はない。
「俺の前に立った勇気は褒めてやる」
「ぬかせ!」
人型魔族が地面を蹴って腕を振りかぶる。
体格差は明白だ。並の人間では肉迫されただけで委縮しかねない威圧感がある。
ラディウスに見せかけは通用しない。体格のいい魔族など散々目の当たりにしてきた。臆すことなく拳をかわして腕を突き出す。
数百年かけて研ぎ澄ませた神速の刺突。反応できなかった魔族の体から装甲が欠け落ちる。
ラディウスが三度腕を押し引きしたのを機に、頑強な人型がたまらずと言った様子で飛び退いた。
「少尉!」
「ご無事ですか⁉」
駆け寄る人影があった。人間だ。少尉呼びした辺りに彼らの関係性がうかがえる。
魔族の意識が呼びかけに引かれた。ラディウスはその瞬間に踏み込んで腕を突き出す。
絶叫に遅れて、足元の地面が赤に塗られた。
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