第2話 魔王撃破
その城は闇に濡れていた。
夜のトバリが下りた城内に照明はない。一定間隔で並ぶ火が壁面を灯すのみだ。薄暗く、油断すれば転びそうなほど闇に輪郭を呑まれている。
火花が闇を暴いた。
続く閃光が室内の輪郭を取り戻した。小刻みに甲高い音が響き渡り、大広間が刹那的な灯りと騒音で満たされる。
戦いの真っ最中だった。毒々しく飾られた広間にて多種多様な雄叫びが混ざり合う。
ぶつかり合うのは四つの光。
赤、青、黄、一際大きな黒ずんだ紫。激しく飛び交う光景は、宇宙のかなたで星々が争っているかのようだ。
中でも黄の光がもたらす破壊は凄まじい。倍近い大きさの紫炎に対してひるむことなく突撃を繰り返す。
荘厳なばかりの輝きはまさに黄金。
それほどまでに怒っているのか、それほどまでに許せないのか。床を焼きこがす稲妻は、主の激情を具現化しているかのように荒々しい。
「おのれ‼ おのれおのれおのれおのれええエエエエエッ‼」
怨嗟の声がむなしく駆け巡る。
城のどこにいても聞こえそうな大音量だが、城の守りにあたっていた同胞は全て討ち取られた。駆け付けるべき異形の配下はどこにもいない。人類最強の戦力が、人類に仇なす異形を今まさに追い詰めていた。
「終わりだ、魔王グリズフ。貴様の首を
男性が剣を振り上げた。剣身を覆いし黄金光が室内をまばゆく照らし上げる。
「がッ⁉」
断罪を暗喩する輝きが異形を斜めに切り裂いた。
勢い余った黄金光が辺り一帯が焼き焦がした。火薬の爆発にも劣らない衝撃波が半壊した玉座を跡形もなく消し飛ばす。
紫の頭部だけが難を逃れて、逃げるように床を転がった。
「が……ぐ」
「さすがの生命力だな、頭部だけでも息があるのか。だが無意味だ。貴様は生かしておくと何をしでかすか分からん。細胞一つ残さず消し去ってやる」
男性が床を蹴って距離を詰める。
暴力の化身と
「許さん! 許さん許さん許さんッ‼ よくも我にこれほどまでの屈辱を‼ 貴様ら全員、楽に死ねると思うなアアアアアアアアッ‼」
歪な頭部がボコンと弾けた。ドス黒い
相手は単騎で数万の死を振りまいた怪物だ。ただの悪あがきでもどれほどの被害が出るか分からない。自爆して道連れならまだマシだが、王都を狙って大規模な魔法を放たれては目も当てられない。
あるいはこの場から転移する術か、指定した対象を別の場所に飛ばす術か。選択肢を挙げればキリがない。
予測できない。対処できる術もない。
ならば阻止一択。どんなリスクを負ってでもここでとどめを刺すべきだ。
それが可能なのは自分だけ。男性が自覚して瘴気に突っ込んだ。魔法の助力を得て、音速に迫るスピードで黒い空間を駆け抜ける。
爆光が闇を
「やった……私たちついにやったのね!」
端正な顔立ちが歓喜に染まった。
均整の取れた肢体に人間離れした美貌。舞踏会とドレスが似合いそうな美女だが、人類でもトップクラスの実力を誇る
ユハ・セクレンツィア。紅一点としてラディウスを支えてきた仲間だ。
「嘘みたいだぜ! 勝ったんだな俺たち!」
大男がぎゅっと槍の柄を握りしめた。優しげな顔立ちながらも実力は折り紙付き。ブルム・アーゲスト。ラディウスが最も長く背中を預け、共に戦場を駆けた戦友だ。
城に潜入して生き残ったのはラディウス含めた三人だけ。他のメンバーは途中の道のりで命を落とした。
仲間の犠牲を糧に、異形の王を討ち果たした。すぐさま遠くで戦う同胞に伝えて戦争を終わらせなければならない。そのために敵地の深くまで潜り込んだのだから。
「まだ本隊が戦っている。俺たちの手で戦争を終わらせよう」
ラディウスは身をひるがえした。帰路への道のりを踏み出した――その時。
「……ぐ⁉ ああっ!」
ラディウスが目を見開いて左胸を押さえた。ボロボロの床に片膝をつく。
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