個人勢()

さて、そういった収益関係の話をちゃんと決めているヴァレフィセンスというグループだったが、当初、このプロジェクトの規模はそんなに大きくならないだろうと予想していた。


その理由は、羽山秀仁はやま ひでひとがVTuber活動を行っていた2年間で、チャンネル登録者数が1000人を越えなかったからだ。これは、彼らが利用している配信サイトの収益化の条件に引っかかるラインでもあった。


登録者数で伸び悩んでいたのは、部活で忙しく、広報活動に力を入れられなかった事も原因のひとつだ。しかし、当時中学3年生だったとはいえ、イラストコンテストで賞をとる事が出来るほどの神絵師が制作したアバターを使い、声楽部として活動している者が声を当て、流行りのゲームをしていたことを考えると、どれだけVTuberという業界が厳しいのかがわかるだろう。


そのような個人VTuberの業界事情を知っていたので、話題になること自体が難しいと考えていたのだ。ひと夏の思い出ならぬ1年の思い出、力を出し切って自己満足の超大作ゲームを作ってやろう!VTuberはその後も趣味として続けていけばいい。そんな認識だった。


しかし、今、ヴァレフィセンスはバズって有名になっていた。


その最大の理由は、大物VTuberに引用リツイートで揶揄やゆわれたことに起因する。


技術屋てっちゃん。VTuber黎明期と呼ばれる、VTuberの人数自体が少なかった頃から活動をしている個人VTuberで、配信ソフトのダウンロードの仕方や使い方、ボイスチェンジャーという声の性別を変えることが出来るソフトのダウンロードの仕方や使い方、VTuber御用達の2Dモデルを作るソフトのダウンロードの仕方や以下略、と、素人がVTuberを始めるための知識の解説動画をこれでもかという程、世に広めた人物である。


まあ、そんな人物なので知名度はものすごいのだ。


そして、そんな彼はヴァレフィセンスのとあるツイートを引用リツイートした。それは個人勢じゃなくて個人勢()なんよ。と。


そのツイートがこちら。


『ヴァレフィセンスって個人勢なんですか?』

「ヴァレフィセンスはデビューするVTuberが3人なのに対して、裏方が18人いる個人勢VTuberです!」


裏方の数が明らかにおかしい。実際には、裏方ではなくヴァレフィセンスのグループチャンネルの運営やゲーム制作陣を合計しているのだが、ゲームの告知をウィルベルトの配信中に行うことが決まっていたため、裏方と称したのだ。


そして、ゲーム制作陣の何名かが面白がって「お手伝いとして参加してます」と表明し、その中に技術屋てっちゃんと交流のあるものが居て、これまた面白がった技術屋てっちゃんが引用RTしたことで、VTuber業界にヴァレフィセンスの名が広まった。


また、ヴァレフィセンスのメンバーは、それぞれのネットでの人気を侮っていた。


ヴァレフィセンスの公式チャンネルを運営している4人はVTuberガチ勢の切り抜き師やイラストレーターで、もちろん他のVTuberの二次創作を行っていた。


ゲーム制作陣の約半数は、制作歴8年のベテランだ。会社に入っていないことで厳格な守秘義務もなく、ネットでは技術ニキネキ姉貴・兄貴と慕われていた。


そうして、ヴァレフィセンスは多大な注目を浴びる中で配信を行うことになったのだった。

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