レンブラント・アークライト ①

配信を開始する時、待機画面というループする動画を用意している配信者は多い。VTuberの個性あふれるその動画は、配信が始まってから準備が完了するまでの間、衝立ついたてとしての役割を持っている。


すぐ配信を始めるのならそんなものいらないと思うだろう。しかし、突然トイレに行きたくなったりだとか、コラボする時に全員のチャンネルで配信が始まったか確認しただとか、


配信開始時にPVを流す予定の時に、ちゃんと配信が開始したかを確認したりだとか


必要な機会は意外と多いのだ。



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ペラリ、ペラリと、古ぼけた本が捲られている映像が流れていた。そして、準備が整ったのだろう。配信画面は水滴で滲むようにボヤボヤと別の画面へと切り替わっていった。


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5歳程だろうか?小さな子供が、ソワソワと落ち着かない様子で椅子に座っていた。その前には背丈に合わせた机があり、子供に読ませるには余りにも分厚い本が置かれていた。


その向かいには、厳しい目線で子供を見つめる初老の男性。


「おじいさま、あの、……。」

「どうした、レンブラント」


どうやら子供は幼い頃のレンブラント・アークライトで、向かいに立っている初老の男性はその祖父という間柄のようだった。


「えっと、お外で、」

「駄目だ!」


ビクッと、小さい子供が震え上がる。


『あの頃、僕はおじいさまが怖かった。』


ナレーションが流れ始める。少年のようなその声は恐らくレンブラント本人の声なのだろう。懐古するような響きを持っていた。


場面が切り替わる。


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『ずっと、外の世界に憧れていた僕は、ある日、疲れたように眠るおじいさまの隙を見て飛び出したんだ』


椅子に座り、眠る初老の男性を影からじっと見つめる子供。起きないことを確認しながら、抜き足差し足、扉へと近づいていく。そして、ドアノブを握りギィイッと音を立てて開いた扉に慌てて初老の男性の方へ振り返る。


『おじいさまはグッスリ眠っていた、疲れ果てたように。でも、その頃の僕はそんなこと気にもしなかった』


不穏なナレーションとは裏腹に、外の世界はとても綺麗だった。青く高い空、森へと続く小道、その脇に咲いている色とりどりの花。子供はキョロキョロと周りを見渡し、ハッとしたように一度家を振り返ると、鬼がいぬ間にと森の中へと駆け出した。


『さすがに僕も、帰らないといけないということはわかっていた。ちゃんとこの道を辿れば大丈夫。怒られるのは怖いけど、何もしなくても怒られるんだから一緒だ、そう言い訳して森の中へわけいってしまった』


『さわさわと流れる小川、ぽっかりと空が見える場所にあった切り株、はじめての冒険を満喫していた僕はどんどん奥へと進んで行った』


そして、鬱々とした森の中、ギャアギャアと鳥のような鳴き声に子供はびくりと反応し泣きそうになっていた。


『この頃になって、やっと僕は帰ろうという気持ちになった。もう日が暮れ始め、どう考えても帰る前に夜になってしまうこの時間に』


『もちろん、僕は松明なんて持っていない。でも、おじいさまに教えて貰っていたんだ。光の魔法陣を』


小さな子供が魔法陣をえがく。手のひらにキラキラと光の玉が現れて、ホッとした表情をし、また歩き始める。


『でも、ちゃんと道を辿ってきたはずなのに、進んでも進んでも、家に辿りつかなかった』


通っていたはずの道はいつの間にか掻き消える。


『歩いても、歩いても、帰れなくて、寂しくて、おじいさまに会いたいって思ったら遠くから僕を探す声が聞こえてきた』


子供は、ハッとした様子で走り出す。


走り抜けたその先で、一生懸命子供を探している人影を見つけた。


そして、僕はその勢いのままおじいさまの腰へ抱きついた。


「やっと見つけたっ!」


おじいさまはそんな僕を、ぎゅっと抱きしめてくれた。おじいさまの腕の中、震えて泣いている僕に暖かい雨がポタリと落ちた。


『これは僕の馬鹿な行動と、その結末のお話。』


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