カレン・フォン・イニエスタ ②

「さて、そんな裏方が多すぎることで話題になったヴァレフィセンスだけども、その実態を知らない方も多いと思うわ」


そう言ってカレンは配信画面の背景を切り替える。そこには自己紹介という文字が踊っていた。


「でも、その辺の説明はウィルベルトが行うことになっているから私は自己紹介を始めるわね」


〈説明せんのかい!〉

〈ひっぱるなぁ〉

〈草〉


「ふふ、期待してくれた方はごめんなさいね。挨拶でも言ったけど、私はイニエスタ公爵家次期当主よ。現在の身分はグリードリー王立ブレイベン学園高等部2年生と言ったところかしら、簡単に言うと高校2年生ね」


「フルネームはカレン・フォン・イニエスタ。グリードリー王国では、フォンというのは王族に連なる者を表しているわ。地球でも似た文化があるらしいけれど、別世界の話だから同一視しないように気をつけてね」


「そう、ウィルベルトも王族に連なる者よ。ちなみに私とウィルベルト・フォン・ルードルは従兄弟なの」


などなど、コメントを確認しながらプロフィールを説明していたカレンは急に押し黙る。


〈え?どうした?〉

〈ミュート?でも口も動いてない〉

〈台本とんだ??大丈夫?〉


「この画面、代わり映えしないわね」


そして、プロフィール画像を映していた画面が切り替わる。


現れたのはバトルロワイヤルFPS生き残りを掛けた一人称視点シューティングゲームの画面。プレイヤーが充分集まるのを待つため、ゲーム開始まであと1分ほど時間があるようだ。カレンの着ていたモノクロだったドレスの白い部分は真紅に染まり、髪の毛はツインテールに結ばれていた。


「これでよし、じゃあ自己紹介の続きと行きましょうか」


〈いや、待て待て待て待て〉

〈草〉

〈どういうこと?〉

〈草〉

〈草〉


コメント欄が爆速で流れ出す。


「私、闘いが好きなの」


「護身術の授業が好きだった。調子に乗って教師の骨を折ったらお父様に怒られたわ。やり過ぎたらダメだと学んだけれど、我慢して手加減するごとに鬱憤が溜まっていた」


「ウィルベルトが狩りを教えてくれて、ある程度はその鬱憤も晴らせてはいたんだけど、ある時ね、こっちの世界の存在を教えて貰ったの」


「それでね、FPSに出会った。はじめは絵の中の出来事なんてと思ったわ。体だって動かさないし、何より命の取り合いが出来ないのは私の世界と同じ、いいえ、体に全く傷がつかない分、劣化しているように感じていた」


「でもね、続けてみたの。そしたらね、続けていく内にゲームの中のキャラクターがまるで自分のように感じるようになった。走るだけじゃスピードは上がらない。ジャンプとスライディングを効率的に使うの。早いだけだと狙い撃ちされる。移動ひとつ取っても有利が取れる場所を通る走り方をするの。私は荒野の中に立っていて、音を聞いて情報を得る。逆にバレないように音を潜め、相手の首を狙う。そのときの、限界まで引き絞った、緊張感」


いつの間にかマッチングが終了し、ゲームが始まっていたようで、FPSの広大なフィールドに、1人の令嬢が降り立った。


「だからね、私はFPSが好き。私と闘ってくれる人を待っているわ」


そう言ったカレンの声は、えも言われぬ艶を含んでいた。

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