前世の記憶
VTuberを辞めた表向きの理由は至極真っ当で「大学受験で忙しくなるから」だった。高校が決まった中学3年の3月から高校2年の同日まで活動し、事前にデビューした日付けで引退することを告知し、円満にVTuberを卒業した。
しかし、VTuberを辞めた本当の理由は、活動に疲れたからという自分本位なものだった。別にその理由自体が罪悪感の元という訳ではない。2年間活動している中で一緒に配信した事がある人や一方的に偶に確認していた人が、精神的負担を理由に去っていくのは何度も見ていたし、それに対して特に悪感情を抱くこともなく、むしろお疲れ様と心からいたわる気持ちだけが存在していた。
デビュー当時の視聴者0人でのライブ配信。
最近来なくなったリスナー。
虚空に話しかけている感覚。
自身を切り売りしているような不安。
売名のためにいいねを押して、リプライを送る。仲間内で励まし合う大切さを理解しつつも、どこか生き汚さを感じていたし、人からのいいねも信じられなくなっていた。
理由を告げて去っていく人、何も言わずに更新がなくなる人、更新はあるが配信者ではなくVTuberファンとしての行動が多くなっていく人、色んな人を見てきた。
取り残されたと感じてしまうのは、まだ活動をしているV仲間への侮辱なのではないだろうか。
と、まあ、有り体に言えば心を病んでいたのだ。リアルで合う友人にも、V仲間にも、ネットの不特定多数の人間にもこの不安や焦燥は伝えなかった。俺は誰にも心配をかけなかった自分を評価しているし、色々不安を抱えてはいたが体調を崩すことは無かった自分を誇りに思っている。
ただ、最近、リアルの友人との宴会で初めて酒を飲んだ時、無意識の内に零していた「俺、VTuberやりたいんだよね」という自身の発言に混乱し、結局あの焦燥はV仲間を信頼できていなかったのかな、と、新しく知った自分の内面に罪悪感を抱いていた。
ので、今回はそういった内面の事情を全部仲間にぶちまけてみることにした。心機一転の行動力なのか信頼度の差なのかわからなくて、またVの者への罪悪感が強くなった気もするが、後悔をそのままにしておくのは趣味じゃない。
まあ、蒼司に何か不安でもあるのかと聞かれた時に、1回誤魔化してしまったくらいには腹を括りきれていないのだが。
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