悪についての禅問答
「悪ってなんだろう」
「悪いってことじゃない?」
「それは送り仮名つけただけでしょ」
「こういう時は取り敢えず、反対のこと考えるのが良いよ」
意見を求めグループチャットを行った結果、意見を取りまとめるのが得意な
話の取っ掛りとして持ってきた、配信者が悪をテーマに活動することの危険性については皆わかっとるわと呆れられ、それでも後で一応会議することが決定した。
それにしても、反対のことを考えるのが良い、か。
「反対のこと?正義についてとか?」
「いや、それでもいいんだけどさ、さっき言ったのは悪はそんな事しない!みたいな反対意見」
「う〜ん、それも思いつかなくね?」
「思考停止おつ」
「辛辣」
軽口を叩きあいつつ、思考を纏めてみる。やはり、悪について思いついていないのに悪がやらないことと言われても直ぐには思いつかない。悪、と言いつつも思い浮かべるのは悪役の事だ。
「俺、前にツイットで、自分が培養したモンスターに襲われながらも実験の成功に純粋に歓喜しながら死んでいくマッドサイエンティスト大好き侍と申す、みたいなの見たことあるよ」
「業が深い。……深いか?」
「読んだツイットは深かった。俺の脳を通した瞬間浅くなった」
「悲しいことだね。でも、確かに悪役ってさ、暗い過去があって深みを出すパターンと、元々価値観がズレててそれが狂気を演出するパターンとがあるよね」
「確かに」
「せっかくグループでやるんだしさ、色んなパターンの悪がいてもいいと思うんだよね。ヒデはどんな悪役が好きなの?」
「う〜ん、ちょっと考えてみる」
そう言って俺はノートに悪役について書き出してみた。雑魚っぽい三下、主役にすら一定の敬意を持たれる悪のカリスマ。身内も切り捨てるタイプと身内には甘いタイプ。
「俺、信念があるタイプの悪役が好きだな」
「確かにそういうキャラ好きそう」
うん、と相槌を打ちつつノートに書き加える。ふと、悪役の反対ではないけれど、やりたくなかったことというのを思いついた。
「さっきさ、反対のこと考えるといいって言ってたじゃん。俺、周りの機嫌を伺うような悪役をやるのは嫌だな」
「じゃあ、私がそういう悪役になろうかな」
「え、なんでだよ」
何故やりたくないキャラを挙げたのにそのキャラを引き継ごうとするのか、別にいいけど。
「正反対のキャラってウケが良いんだよね。それに私は結構そういうキャラ好きだからさ」
「ふーん、そうなんだ、なんか意外」
「そう?私としてはヒデに嫌いなキャラがいたことが意外かな。全肯定マンじゃん、解釈違い激しいけど」
「いや、別に全肯定マンではないよ。それに、別にそういう悪役キャラが嫌いって訳ではないし」
「ふーん、そう。あ!そろそろ家でないとだわ、三限に講義あるんだよね。まあ、どういうキャラにするか悩んでるんだったら
「ん、そうする〜」
俺たちが所属していたパソコン部は団結力が高かった。半年に1個のペースでゲームを作っていたので団結力高くならざるを得なかったとも言うのだが。大学に進学したことで多少疎遠になった期間があっても、ひとたび集まれば結局こうして変わらない関わりを続けられることに安心感を感じていた。
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