第1章 悪のVTuberが生まれるまで

セルフブランディング

「悪」という単語の意味を調べたことがあるだろうか?日常的に使われている単語や、いつの間にか意味を理解している単語を調べる機会と言うのは思いの外少ない。


かく言う俺も、悪のVTuberを始めるにあたって初めてネットで検索する事にした。

調べた結果を述べよう、大変心躍る文章だった。「形式的に定義するならば」とか「ごく概括的にいえば」とか、「悪」という単語をネットで調べちゃう厨二ズムな人にぶっ刺さる大変良い文章だった。めちゃくちゃ満足。


「って、違う違う、思考が脱線した。」


パソコンの前、男は自分の思考に呆れたようにため息を吐く。


旧友達と「悪」をテーマにVTuberグループを作り活動するという話になったのだが、悪という言葉の意味を吟味した結果、配信者と相性が悪いんじゃないか?という至極当たり前の懸念を抱いた。むしろどうして話し合いの時に思い至らなかったのか。酒を飲んで酔っ払ていたからだろう。正常な判断ができない時に大事な話はするべきでは無い、これも至極当たり前の話だ。


しかし、古くから付き合いのあるこの友人達の間で『会議』が行われ『方針』が決定したならそれがブレることは許されない。各々が暴走しがちな人間が集まった集団が方針を持たずに突っ走ってしまえば風呂敷が広がりすぎて計画が頓挫してしまうのだ。これは賢い未来予想ではなく経験からの教訓だ。我々は痛いほど方針の重要性を認識している。


「あ〜、もう皆動いてるだろうし方針は変えないにしても炎上しないように何かしらの制約はつけないとな。」


そう言って通話アプリを立ち上げた。

実の所、暴走しがちなメンバーといっても、普通に法律は遵守するし意外とみんな常識的な考え方をするので別段心配する必要は全く無い。しかし、この男は現在、少しナーバスになっていた。今後の活動について考えているのに何も思いつかなかったから、取り敢えず「悪」という言葉の意味を調べ、そこで他のメンバーと話し合う理由を得ることが出来てどこかホッとしているのだ。そんな、みみっちいこの人物こそが、この物語の主人公の羽山秀仁はやま ひでひと、後のウィルベルト・フォン・ルードルの魂である。


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VTuber用語

魂…中の人

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