第2話


 いじめられているわけではないが、友達はほとんどいない。話すことが苦手だから、会話を必要とする集団になじめなかっただけだ。だから一人ぼっちで通学路を歩いている。けれど、そんなことは気にならない。運がいいことに、宮崎さんとほとんど道が被っているのだから。


 勿論他にも同じ道を歩く人たちはたくさんいる。でもその大半は、途中に家があったり、脇道に逸れたりして、最後に同じ道に残るのは、私と宮崎さんだけ。つまり、人に囲まれていることが普通の宮崎さんに唯一私から話しかけることができるチャンスなのだ。


「っ宮崎さん」


 学校でほぼ使われることのない声帯が、最初の一瞬仕事をせず、少し声が裏返ってしまったが、自分から話しかけることができた。


「どうしたの?」


 当然のように宮崎さんは振り返って返事をしてくれる。これがどれだけありがたいことか。家で自分にも他人にもゴミ扱いされている私には涙が出そうになるほどのことだ。


「あのねっ、宮崎さんに聞きたいことがあるの。ずっと、ずっと聞きたかったこと」


「うん。なあに?」


 私は緊張で一つ息を呑んだ。ずっと聞きたかったこと。だけど、聞いたら何かが変わってしまいそうで怖かったこと。それでも、今日絶対に聞くと決めていたのだ。


「宮崎さんは、なんで私なんかに話しかけてくれるの? 私に、私と話していて楽しい? 私には、話しかけてもらえるだけの価値があるの? 生きていていいだけの、価値はあるの?」


 こんなこと聞かれるなんて、予想もしていなかった宮崎さんは目をぱっちりと開き、少しの間驚いて、それから「ううん」と唸って考え、そして、静かに答えはじめた。


「価値があるか、なんて大切なこと僕が決めちゃダメだと思う。これは君自身が決めることじゃないかな。……だけど、僕は君に救われた」


「救われた?」


「君は、僕の夢を否定しないでくれたから。僕が小説を書いていて、たった一人。馬鹿にしたり、笑ったりしないでいてくれた人だから」


 20分間の中休み。授業と授業の合間の自由な時間。机に向かって、ノートに楽しそうに一心不乱に何かを書き込み、時に迷い、何度も消しては書き直している姿を見た。その姿は、周りが見えないくらいに夢中になっていると、一目でわかった。


 人が本気で何かに打ち込んでいる姿を初めて見た私は、こうも輝いて見えるのかと驚いたことを覚えている。


「たったそれだけ? それだけで宮崎さんは救われたの?」


「たったそれだけなんかじゃないよ!」


 宮崎さんは食い気味に叫んだ。


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