ゴミな私の生きる価値

大和詩依

第1話

 具合が悪くて部屋で転がっていたら、邪魔だと言われた。邪魔だからと蹴って部屋の端までどかされた。


 こんな扱い道端に落ちているゴミと同じだ。つまり、自分はゴミと同じだと。そう悟ったのはいつだっただろうか。思い出したくもない。


 学校には行っている。行かないと周囲からの親の評価が下がるから。学校の評価は親からの評価にも繋がるから。でもそんなもの、もう私にとってどうでもよかった。けれど、行かなければ殴られる。蹴られる。家から叩き出されるから仕方なく学校に行く。


 好きな教科はない。得意な教科もない。趣味も、頑張りたいこともない。友人もたった一人だけ。


 例えば、私に何かの才能があったのならば。正しい形でなくとも、愛されたのかもしれない。絵の才能を持っている兄を見ていると分かる。でも神様はそんなもの小指の先ほどもくれなかった。神様は残酷だ。


ーー何で生きているのだろうか。


 分からない。


ーー何で生きなければいけないだろうか。


 分からない。


 自問自答しても答えは出ない。だからと言って、死ぬ勇気も生きる気力もあるわけではない。狭くて厳しい世界で、私を生かしているのはたった一人の友人だった。


「おはよう! 今日更新された話読んだ? 主人公のライバルがさぁ」


 特にやることもなく、授業が始まるのをじっと座って待っている私に、純粋無垢な笑顔を向けて話しかけてくるのなんて一人しかいない。同じクラスの宮崎錦だ。


「おはよう。読んだよ……」


 せっかく話しかけてくれたのに、口下手な私は最低限の返事しかできなかった。それでも友人は、嬉しそうに私に話し続ける。今日掲載された話の感想。今後の展開の予想。君はどう思う? と私が答えられるように話を振ってくれる。


 小さい頃からまともに他人と会話した記憶がない。きっと基本的なコミュニケーション能力を獲得する時期に、適切な対応がされなかったせいだろう。


 そんな誰でも持っている能力が欠陥している私にも宮崎さんは話しかけてくれる。思えば宮崎さんと話すようになってから、話すのが以前よりもほんの少しだけ上手くなったのかもしれない。


 今日読んできた話について、熱心に語る宮崎さんの言葉に重なってチャイムが鳴った。あと五分でホームルームの始まる合図だ。


「でさ、主人公もね……あ、チャイムだ。じゃあ、またあとで」


 そう言って、宮崎さんは自分の席に戻って行った。正直、話しかけてもらってもあまり上手い返答はできないし、話を広げることもできない。申し訳なさでいっぱいだ。


 宮崎さんは友人が多い。休み時間だろうが放課後だろうが、体育の着替えだろうが、教室移動中だろうが、人と人が会話できる機会があれば、誰かしらそばにいた。


 話す相手には事欠かない。話していて楽しい人も沢山いるだろう。それなのになぜ私なんかに時間を割くのか。理解ができなかった。


 考えたってどうせ私には、人の気持ちは分からない。殴られたくないから、罵倒されたくないから、お母さんたちを怒らせないよう沢山考えてきた。けれど、お母さんたちの気持ちは結局分からなかった。だから今も家族が私に対して優しさというものを向けることはない。


 一番近くにいて、一番長くいる家族の気持ちすら理解できないなら、友人とはいえ学校でたった一時関わるだけの人の気持ちがわかる理由などない。そんなことを表面上理解したふりをしていてもやはり気になってしまう。


 そんなことを考えているうちに、少しだけ授業から意識が飛んでいた。先生が板書を消す音でふわふわしていた意識は現実に戻り、慌てて残りの板書をノートに写す。


 そんなつまらない作業を繰り返しているうちに、学校が終わった。




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