SS置き場

@ookyukyu

scene1 かおるとつばさ

 今日は嫌なことがあった。


 そうしたらつばさが一緒にご飯を食べようと誘ってきた。


 そんな気分じゃなかったから一度断ったが、聞かないので自分でも機嫌悪いなという声で渋々了承した。


 あー、感じ悪かったな。つばさにあんな態度をとってしまったことでも気分が悪くなる。より最悪だ。


「着いた!」


 店を見ると寿司屋だった。回らないやつ。


「入ろう!」


 ちょっと躊躇してたが半ば強引に手を引かれて店の中へ入る。


「いらっしゃい!」


 元気な親父があいさつしてくる。


 カウンター席もあったが、つばさがテーブルでと言ったのでテーブル席へ座った。


「……」


 テーブル席だと、相手の顔がよく見える。


 さっきのことを謝らなきゃと思いながらも、勇気が出なかったり、他のことでいらいらしていたりで、口に出せないでいた。


 それでも注文は行い、寿司が来るのを待っていた。


「……」


 場には沈黙が流れた。


 こっちは言葉を発しなかったし、つばさも無理に話しかけようとしてことなかった。それがなぜか嬉しかった。


「お待たせしました!」


 親父に負けない声で若い店員が寿司を持ってきた。


 美味しそうだった。


「……」


 つばさの顔を見た。ちゃんと見たのは今日初めてかもしれない。


 つばさはいつもどおりの表情をしていた。それがひどく嬉しかった。


 様子を伺いながら二人でいただきますをして寿司を口に運ぶ。


 ……うまい!


 ネタが新鮮でとても美味しい。シャリも口当たりがふわっとして美味しい。


 思わずつばさの方を見るとつばさは笑っていた。


「……何がおかしい」


「ごめんごめん。……やっと笑ってくれたなって」


「……!」


「かおる、今日落ち込んでるみたいだったから、何か励まそうと思ったんだけどうまいこと思いつかなくて。美味しいものでも食べれば元気出るんじゃないかと思って」


 そういうことだったのか。


 そうなのに、自分といったら……


「ごめん、感じ悪くしちゃって」


「ううん、機嫌悪いのわかってたから」


 すごく嬉しかったし、何かお返しがしたいと思った。


「ありがとう。……今度つばさが元気ない時も、美味しいものを食べに行こう」


「元気な時もね」


「もちろん!」


 そう言って違うネタを運ぶ。


 違うネタには違う美味しさがあるが、顔が綻ぶのは同じだった。


 おいしいものは気持ちもおいしくしてくれるんだなあ。


 

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